どくん。どくん。
いつもより早い心臓の音。
どくん。どくん。
いつもより大きい心臓の音。
この気持ち、あなたに伝わりますように。
V.D.Magic
2月14日。
誰がいつから決めたのか知らないけれど、私が記憶してる一番はじめての2月14日にはすでにバレンタインデーはあった。
お母さんの手を握りしめて、少し遠くのデパートまでお父さん用のチョコレートを買いに行ったのが懐かしい。
チョコレート受け取ったお父さんの照れたような笑顔が忘れられない。
その時にバレンタインデーは好きな人を笑顔にさせる日なのだと子どもながらに理解した。
そして、今。
時刻は夕方4時過ぎ。
授業が終わり、生徒たちが続々と帰宅する時刻。
私もいつもなら即帰宅するけれど、今日はまだ帰らない。
だって、まだ太一にチョコレートを渡せてない。
幼馴染の太一。
昔から一緒にいて、一緒にいるのが当たり前で、周りから夫婦とか言われていても、私たちは彼氏でも彼女でもない。
私は好きだけど、太一は…わからない。
だから、この鞄の中にあるチョコレートも渡せない。
チョコレートを潰さないように教科書を詰めていると、後ろから声がした。
「はぁ?!なんでだよっ!」
「太一は嫁と帰るんだろ?今日はバレンタインデーだからなー。」
「ほら、行った行った!」
太一はニヤニヤとした笑みを浮かべる友達に背中を押され、私の机の前まで来た。
そして、私の側にいたはずの友達もいつの間にかいなくなっていた。
「っと…とりあえず、一緒に帰るか?」
「う、うん!!」
太一は苦笑いしているけれど、私は太一の背中を押してくれた友達に感謝していた。
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bkm