箱から出てきたのは、先程の銃声とはあまり似つかないような、黒のスーツを身に纏いながら頭の金糸を輝かせる細身の青年だった。

「おっ……と?」

 彼はすぐにわたしに気づいたらしく、目を瞬かせた。その片目は前髪によって隠されている。

 まだ決して安心しきったわけではないが、想像していたよりもはるかに一般的な容姿(主に体格)をしていたものだから、わたしはなんだか拍子抜けしてしまい、その場に座り込んでしまった。

「どうしたんだい?!お嬢ちゃん?!」

 わたしの鼓膜を優しくノックするテノールが焦る心を穏やかにさせてくれた。

 声をかけられたまま何も言葉を発さないわたしを見た青年は困った表情を隠すようにポケットから取り出した煙草を咥えた。
 すると彼が手を差し出してくれたものだから、わたしは何も言わずにその手を取った。立ち上がろうと地面についたままのもう片方の手に力を込めながら、ようやく涙の乾き始めた目でその表情を見上げてみる。

 それはとても優しい眼差しで、先刻の銃声は彼ではないとなぜか納得できてしまった。

 繋いだ手から伝わる暖かさにようやく落ち着きを取り戻し始めたわたしは、そこで足に力が入らないことに気づいた。

「あれ?」
「ん?」

「足に力が入らない……」

 さっき座り込んだとき、腰が抜けてしまっていたのだろうか。いくら立ち上がろうとしてもそれは不可能だった。

「立てねェのか?」
「そうみたい……」

 彼は口元に手を当てがい少し考える素振りを見せた後、そういえば、と言葉を続けた。

「もしかしてお嬢ちゃん、この家に住んでるのかい?」
「えっ……ちがう、むしろ貴方のおうちなのかと」
「いや、俺はついさっき仲間とこの島に上陸したばかりだから…………お嬢ちゃんはこの島の住人じゃないのか……?」

 わたしは顔から血の気が引いていくのを感じた。





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2016年11月執筆

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