「ただいま」
「あ!おかえりなさい!」
キィ、と扉が音を鳴らす。竜士くんが学園から帰ってきたのだ。わたしは彼の棚から拝借した祓魔の本を机に置き、くるりとそちらを振り返った。
学園では昨日と同様、定期試験が行われていた。試験中は教室にいても仕方がないと昨日で学んだわたしは、こうして寮でおとなしく竜士くんの帰りを待っていたのだ。
するとすぐに自分のスペースへ向かった竜士くんは机の脇に鞄を置くと、そのまましゃがみ込んでクローゼットを漁った。
突然どうしたのか気になったわたしはスイスイと宙を泳いでいき、屈む竜士くんの背後から首元に腕を回してその背中に伸し掛かる。
「竜士くん、試験お疲れさま!」
「おぉ、名前。1人で留守番させて堪忍やったな」
「全然ヘーキ!本いっぱい読めて有意義だったよ〜」
それにそもそも、留守番はわたしから言いだしたことだ。竜士くんに謝られる謂れはない。
すると不意に竜士くんが名前、とわたしを呼びかけた。
「この後予定あるか?」
「この後?特にないけど……どうかしたの?」
そう答えると、クローゼットから引っ張り出した薄手のジージャンをぽんと手渡された。
「今週末合宿行くんに、お前の物なんもないやろ。買い物行くか」
「え…………っ!」
振り返ってわたしと視線を合わせた竜士くんがにっと微笑んだ。彼はわたしが密かに合宿を楽しみにしていることを覚えていてくれたのだ。
「合宿準備……!!」
ああ、なんて胸がときめく四字熟語。
漫画風に表すのなら、今わたしの双眸はきっとキラキラと光り輝いているのだろう。
家に帰るまでが合宿、なんてよく言われるのだから、事前準備から既に合宿が始まっていると言ったって過言ではない。
「ほなら名前、行こか」
「……!うん!」
わたしはすぐさま先ほど受け取ったジージャンを広げて、その大きな袖口に腕を通した。