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「あ、名前ちゃんおはよーさん。柔兄が駅まで送ってくれるみたいやで」
「あっ………………そうなんや、わーい」

 朝。旅館の前で集合したら、廉造からいつもの調子で話しかけられた。
 あれ? あたし昨日告白したよな?
 もしや夢やったんでは、なんて思って頬をつねってみるけどちゃんと痛い。それに、子猫丸にひっつく弓ちゃんが今の会話を聞いて訝しげな目つきで廉造を見つめとるから、やっぱり現実で間違いなさそうや。

「意識しとったんは完全にあたしだけっちゅーこと……」

 そら気まずくならんのはありがたいけれども。
 正直、多少気まずくなってもそれで廉造があたしのことを女の子として見てくれるようなるんなら嬉しいなって思っとったんに。ほんま泣かせてくらはる。

「はぁ……」
「なんや名前、なんかあったんか?」
「坊……おはようございます」

 ふと声をかけてくらはった坊に挨拶すれば、おはよォ、と短く返してくれた。
 そんな坊をちらりと見やる。
 数年前まではほっそい身体してはったんに、祓魔師エクソシストなるため言うて鍛えたおかげで今や随分とええガタイにならはった。真面目で頭もええし、女将さん譲りの整った顔やて目つきの悪ささえ除けば申し分ない。

「こないええ男が側におるんになんでよりによってアイツなんかなぁ……」
「?! い、いきなりなんの話や……」

 ストレートに褒められて坊は顔を赤くする。うん、このピュアな感じもほんまたまらん。
 うちの若座主様がええ男なんを心底理解しとるだけに、それでもあたしが好きなんはやっぱり廉造っちゅーんがどうしても悔しい。

「ふふ、坊、聞いてくださいよ、あたし昨日ついに廉造に告白したんです」
「え?! ほ、ほんまか……?」
「ハイ、ほんまです。フラれてまいましたけど」
「そ…………そうなんか」

 そう言って気まずそうに眉根を寄せはる。廉造にもこういう反応を求めとったんやけどなぁ。
 あたしが廉造を好きやってことは坊も子猫丸も知っている。男とはいえ幼馴染やし、廉造のこともあたしのことも誰より詳しい2人やから、よく相談に乗ってもらっていた。相談ちゅーか、あたしが一方的に廉造の話をしとっただけやけど。

「……けどな、気まずなるかなー思っとったんに、廉造がいつもの調子すぎてわけわからんのですよ。どういうことやと思います?」

 ケラケラと笑ってそう問うたところで、坊が反応に困ってはるのに気づいてハッと口を噤んだ。
 いつもならこんなダル絡みせえへんのに、あたし、自分で思ってるより参っとるんかな。
 気にせんといて、と訂正しようと思えば、それより早く坊が口を開いた。

「……そら、志摩かて名前とは気まずくなりたないからやないんか」
「え……そ、そうですかねぇ」
「おォ」

 坊はそう言わはると優しく微笑って、あたしの頭をくしゃりと撫でた。昔から、背の低いあたしをこうして妹みたいに扱う時があるのだ。もう高校生になるっちゅーんに。

「柔造が呼んどる。早よ行くで」
「はぁい!」

 元気よく返事して、あたしらは駐車場の方へ向かった。
 そこで待っていた父さんと母さんに別れの挨拶をして、柔造くんの車に乗り込む。助手席に坊、後部座席にはあたし、廉造、子猫丸の順に座った。

「なぁ名前ちゃん、東京着いたら美容院行くねんけど、髪色どんなんがいいと思う?」

 動き出した見慣れた景色を窓から眺めていたら、また廉造に話しかけられた。
 さっき坊に言われたことを思い出す。廉造も、あたしが気まずないよう気遣ってくれとんのかな。
 あたしは差し出されたスマホの画面を覗き込んで、廉造に似合いそうな髪色の写真を指さした。

「これとかええやん」
「へぇ、また派手なん選ぶなぁ。なんでなん? カワイイ志摩さんに似合いそう?」
「うん、頭ん中まで真っピンクな廉造によう似合いそう」
「ちょ、ヒッド!!」

 あはは、とお腹を抱えて笑った。
 気まずくなっても女の子として見てもらえるなら、なんて思っとったけど、やっぱりそんなことあらへん。こうして今までみたく廉造と笑って話せるんが、何より楽しくて幸せやなぁって、そう思った。

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