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 物心ついた頃にはいつも4人一緒やった。

 っていうか生まれた時から一緒やったらしいし、なんなら生まれる前からとも聞く。
 明陀宗に所属する花巻家の長女として生まれたあたしは、おんなじ寺で育った坊や子猫、それに廉造とはいわゆる幼馴染っちゅーやつにあたる。
 明陀のみんなのことはほとんど家族みたいやと思っとるけれど、ただ一人、廉造にだけは幼い頃から別の気持ちを抱いていた。

「廉造……あたしな、ずっと廉造のこと好きやって…………せやから、あたしと付き合ってください……!」

 中学卒業を機に、あたしは思い切ってその胸の内を廉造に打ち明けた。
 正直、女好きの廉造のことやから二つ返事で受けてもらえると思っとった。あたしのことが好きかはともかく、彼女ができるんやから。
 せやのに、返ってきた言葉は、

「えぇ〜……そんなん言われても、名前ちゃんほとんど身内やん」

 ごめん、とか、考える、とかでもなく。
 どうやらあたしは廉造にとって1ミリも眼中にないらしいことがわかってしもた。恋愛対象やなかったことに気づいてしもた。

 さようなら、あたしの数年来の想い。
 あたしの初恋は、こうして幕を閉じた。










「……なんて、割り切れたら苦労せえへんやんなぁ?!」

 3月も終わりがけに近づいてきた頃、あたしは5つ歳下の弓ちゃんに泣きついていた。
 弓ちゃんは廉造の妹やけど、あたしと同じように小さい頃から子猫丸に片想いしているから一緒に“片想い同盟”を組んでいるのだ。

「廉兄サイテー。名前ちゃん頑張ったんになぁ」
「ほんまに……! あたしがどれほどの勇気を振り絞ったか……!」
「っていうか、なんべんでも訊くけどマジで廉兄のどこがええの?」
「ほんまに……あたしも訊きたい……」

 べしゃりと目の前の卓袱台に突っ伏す。
 廉造は女好きやし変態やしエロ魔神やし不真面目やしめんどくさがりやし、ほんまにあないな奴のどこがええんやろって、もう毎日のように思っとる。

「そんでもさぁ、なーんか好きなんやもん……」

 ぐす、と鼻を啜った。それを見て弓ちゃんは小さな手であたしの頭をよしよししてくれた。ええ子やなぁ、廉造の妹とは思えへんわ。

 あたしが廉造を好きになったんは、もう全然覚えとらへんけど、きっとすんごい些細なことやったんやと思う。
 初めは坊も子猫も廉造もみんなおんなじやったんに、気づいたら廉造だけ目で追っかけとって、廉造と話すとなんや胸がドキドキするようなって。バレンタインの時かて、ほんまはみんな一緒のんを用意すんのに廉造のだけちょこっと特別仕様にしてみたりとか、とにかくいつのまにかあたしの中で廉造が他とは違う存在になってもうとったんや。

「……弓ちゃん。あたし東京行ってやっていけるか心配やわ」
「そんなん言うたら弓やってそうやもん。もう子猫しゃんに会えんようなる……」

 そないなふうに言う声が少し震えたんに気づいて、咄嗟に顔を上げた。
 眉を顰めて瞳に膜を張りながら涙が落ちんよう必死に堪える弓ちゃんにきゅっと胸が痛む。
 そうやんな。あたしらが上京したら、もうなかなか今までのようには会えんようになってまうんやから。
 あたしはつられて目頭が熱くなりながら、ぎゅっと弓ちゃんを抱きしめた。

「東京行っても連絡するからなぁ……! 子猫丸の写真いっぱい送ったるから!」
「名前ちゃん……! 弓かて、また話なんぼでも聞いたるから!」

 あたしと弓ちゃんはおいおいと泣き合って、その日はあたしの部屋で一緒にお泊まりをした。
 弓ちゃんとも会えんくなる思うとえらい寂しなる。この子はあたしにとってかわいい妹みたいなもんでありながら、大好きな仲良しの友達でもあった。

 父さんや母さん、明陀のみんなと離れ離れになるんは寂しいし、高校の勉強や悪魔祓いエクソシズムの塾についていけるかも不安や。それに何より、明日からどないな顔して廉造に会えばええんかもわからへん。

「はぁ……」

 胸のモヤモヤをいっぱい残しながら、あたしは明日、生まれ育った京都このまちを出ていくのだ。

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