インストールされた超魔法 [ 3 ]

「これが、その古文書ですか?」
「うむ。ただこれは、古びてそれらしく見えるがレプリカだよ。本物は国が保管しているんだろう。
今回は少しでも多くの情報を正確に集めるために本物そっくりに作ったレプリカをそのまま各地に提供することにしたようだ。」

「とゆうことは、本物もこんなに劣化してるということなんですね…」


館長から本物そっくりに作られたレプリカの古文書を一人に付き一冊手渡され、
ルーシィとレビィは図書館の奥にある事務室で、館長と館長の知人である数名の学者と司書と共に作業に取り掛かっていた。
あらかじめ、古代文字や図形に関する書物や資料を各自用意していたため、事務所の中は天井に届きそうな程に本と紙で埋もれている。


「ここ以外の各地での調査で色々とわかっていることがあるのだが……、
先入観なしで一から調べたほうが新たな発見が出てくることがあるため、 皆には各自で一度調べてみてほしい。
ある程度情報が揃ったところで皆で共有し、協力して作業を進めたいと思う。良いかな?」


館長の指示により、用意された席に座り各自のやり方で古文書を観察しながら解読の助けになるであろう情報をまとめていく。
レビィも風詠みの眼鏡をかけ、何冊もの本を見比べながら何かを熱心に書き綴る作業を繰り返していた。
独特の重苦しい雰囲気が部屋全体に溜まり、ルーシィは気付かれないよう静かに深呼吸をする。
そしてゆっくりとレプリカである古文書を開いた。


(……うーん。…やっぱりナツに一度見てもらったほうがよかったかも。)


語学に長け今までに解読の仕事もこなしているレビィならともかく、本には詳しいものの解読の経験などないルーシィには、どこから手をつけていいのかすら予測できない。
一つの絵にも見えるおそらく文字であろういくつもの塊が区切り無く並べられているその様をぼんやりと眺めながら、
まずは全てのページに目を通してから、持参してきた資料を元に調べていこう、とルーシィは気合いを入れなおして取り掛かった。

しかし、パラパラとページをめくっていると、なぜか急に今は亡き母のことを思い出す。
忘れていた昔の記憶が蘇る感覚を感じ、ルーシィのページをめくる手が止まった。



(ママ?これでさいご?)

(そうよ。これで最後…。)

(これでマホウがかかってるの?なにもかわらない…よ?)

(大丈夫。明日になればおかしな文字も図形も思い浮かばなくなっているわ。でも…もし…)



頭の奥から突如覚えの無い思い出が掘り起こされた。
それと同時に古文書にある羅列した文字であろう塊たち一つ一つが、ある図形を形作る様を頭の中で思い描いてしまう。


「これは…魔方…陣…?頭の中が勝手に…」

「…………………ーちゃん?」


深い暗闇から意識が急浮上した感覚がルーシィの全身を襲う。気だるさと急に視界がクリアになったような感覚とで、ルーシィはぼんやりしたまま声を掛けられた方に顔を向けた。


「……レビィ…ちゃん。」
「どうしたの?ぼんやりして。お昼だから休憩しようって館長さんが…」


いつのまにか時間が過ぎていたらしい。皆、昼休憩のために出た後で、部屋にはレビィとルーシィしか残っていなかった。
途端に胸に焦燥感が広がり、ルーシィは意識する前に席を立ち部屋を飛び出していた。


「ルーちゃん!?」
「レビィちゃんごめん!」


部屋を出て、図書館を出るまでに、何人かに声をかけられた気がするが、ルーシィの意識は突如現れた自分の考えに囚われていた。



―― 早く、行かなきゃ、また止められなくなる ―――

―― ……何を…? ―――

―― 町から出ないと ――

―― ……なぜ…? ――



自分の意思なのかわからないまま、抑えられない焦燥感の赴くまま走り続ける。
マグノリアの町並みが目の端を通り過ぎていくのを見ているだけなのに、まだ数ページしか見ていないはずの古文書の中身がルーシィの頭の中に流れ込んでくる。
それはただの文字の羅列としてではなく、意味を持った言葉と何かの図形となって。


「ルーちゃん!?どうしたの!?」


ルーシィの様子にただならぬ予感を感じたレビィは、追いかけ手を掴もうとした。
街中を走り抜けるルーシィに追いつきかけた時、僅かにルーシィが振り返った。

その時、レビィはルーシィの虚ろな瞳と微かに何かを詠唱しているように動く唇を見る…
だが、それはほんの一瞬で、視界は、光に包まれた。









それから数日経った日の夕刻が過ぎた頃にナツとハッピーがギルドに駆け込んできた。


「おーーーっす!ただいま〜!」
「ただいまー!」


威勢のいい声を出す一人と一匹に続き、エルザとグレイが戸をくぐる。


「「「「……?」」」」


数日振りのギルドでは、飲食をするものもいなく、賑やかな雰囲気とは反対にピリピリとした重苦しい雰囲気が全体に立ち込めていた。
マスターはいつもいるカウンターにではなく、部屋の中心ほどにあるテーブルの上で腰掛け、皆に取り囲まれていた。
そのテーブルの上では、カナが何枚ものカードを広げ、シャルルが神妙な顔つきでそれを眺めている。


「マスター。何かあったのですか?」
「…おーエルザ、帰ってきたか。その様子だと無事仕事を終えてきたようじゃな。」

「あれー?ルーシィはー?」


ハッピーがエーラを広げ、皆の周りをくるくると回りながら声を上げる。
その時、ギルドの入り口からジェットとドロイが駆け込んできた。


「マスター!ガジルとジュビアもやられた!」
「ウェンディ!治癒魔法を!」


すぐさまシャルルがウェンディを掴みギルドから飛び立っていく。ジェットとドロイはナツ達がいることに気づき、縋るような視線を向け詰め寄った。


「お前ら!………エルザ!帰ってきたのか!ルーシィを止めてくれ!」
「なんだ!?何があった!?」

「ルーシィが暴走してるんだ! ガジルもジュビアも…止めに行った他のやつらも…やられた。止められねぇんだ!!」
「俺達のレビィも…やられた!ウェンディの治癒魔法がなければどうなっていたか…!」


ジェットとドロイは、自分達の非力さを悔やむように全身を震わせて足元を睨む。
その様を、エルザ・グレイ・ナツは疑心を含んだ瞳で見ていた。エルザが冷静になれという面持ちで二人を諭そうとする。


「何を言っているのだ?ルーシィが仲間を傷つけるわけがないだろう。」

「……帰ってきて早々悪いが、お前達に仕事を頼みたい。」


マスターが机から腰を上げ、三人をまっすぐに見据えた。



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