インストールされた超魔法 [ 2 ]
めずらしく何事もなく無事に終えた任務の帰り、体力も存分に余っていたため、ルーシィは家とは反対方向に歩き出していた。
書きかけの小説の材料でもないかと色々な店を見回った後、いつも行く図書館へと向かう。
「あ、館長さん!こんにちわ!」
「…ほぅ……これは素晴らしい……はい…是非協力させていただきたい…」
常連となりすっかり仲良くなった館長に挨拶をしようと受付に向かったが、どうやら電話中のようだった。
館長は、ルーシィにかけられた声に気づかず、受話器を何度も握り直しながら話し込んでいる。
人生を全うしてきた初老のようないつもの穏やかな表情はなく、めずらしく情熱的に目を光らせている館長に何事かと興味を抱き、よくよく観察することにしたルーシィは、
館長の前に置かれた郵便物であろう箱の中にいくつもの古びた本を見つけた。
(…ん……なんだろう……古代文字……かしら…)
「……はい……はい…わかりました。それではまた後日……」
ゆっくりと受話器をおいた館長は、郵便物の箱を両手に抱え受付から出ようとした所で、やっとルーシィに気づく。
「…ルーシィ!あぁ、驚いた。いつからそこに…?」
「こんにちわ!少し前からいました。それより館長さんその本は何ですか?」
「あぁこれは………………」
「………………?」
「………そういえば、前に古代文字の翻訳ができる友達の話をしていたね。そのお嬢さんとルーシィ…君に協力してほしいことがあるんだが…」
館長の話ではフィオーレ王国が内密に動いている古文書の解読の依頼があり、いくつもの語学研究者や解読者達によって解読が進められていたが、
思うように解読が進まなかったために関係しそうな情報や資料を集める目的で、ここマグノリアの図書館にも協力が要請されたようだった。
元々、未解読の古文書に対して大きなロマンを感じていた館長は喜んでその依頼を承諾することにした。
もし、解読の糸口でも見つけることができれば、この図書館が有名になるかもしれない、国から栄誉ある何かをいただけるかもしれない、
そんなことを夢見ていたところでルーシィと居合わせた館長は、フェアリーテイルへの依頼という形でルーシィとレビィの力を借りることを思い付いたのだった。
「未解読の古文書の解読!!?ルーちゃん本当に!??」
「…声が大きいよっレビィちゃん!…情報集めだけだし依頼の中では一部の古文書だけだけど、いちおう内密の仕事だから…」
「わかってる!ごめんルーちゃん!…でも機密扱いの古文書解読の仕事に携われるなんて夢みたい!」
「館長さんがフェアリーテイルへの依頼としてマスターに話を通してくれてるんだけど、公にしてはいけない指示が下りているの。」
「わかってるわ!ジェットとドロイに気づかれないよう上手くやるわ!」
ルーシィとレビィは、今回の仕事の内容だけに、冷静に慎重に取り掛かろうとしていた。
だが、知的欲求の興奮をくすぐられ、どうしても舞い上がってしまい、興奮して内密に仕事をこなせないかもしれないと危惧した二人は、
マスター以外にミラジェーンとエルザに事情を説明し、口裏を合わせてもらうことにした。
マスターから直々にエルザ・グレイ・ナツに時間のかかるクエストを託してもらい、レビィは帰省することにし、
それ以外はミラジェーンの口添えで二人がギルドに顔を出さなくても問題ない状況をいくつも用意した。
準備は整った。これで仕事に専念できると二人は楽しそうに笑い合いながら、ルーシィの家へと向かう。
レビィは、大きなトランクケースを引き摺りながらウキウキと声を上げた。
「帰省していることにするから寮に帰れないだけなんだけど、なんだかうれしいな。ルーちゃんの家に泊まれるんだもん!」
「私も!明日からは作業に集中しないといけないけど、今日はお泊り会ね!そうそうこの前読んだ本がすっごくおもしろくて、レビィちゃんにも読んでほしいんだー。」
レビィとルーシィは、話に夢中になりあっという間にルーシィの家に着く。
二人は、明日からの任務と二人だけのお泊り会に心を躍らせ、楽しそうに笑い合いながら扉を開けた。
「よ!おかえり!」
「っ、不法侵入〜〜〜!!!?」
「ええええ〜〜〜!!!?」
「あれ?…レビィ?」
扉を開けると、当たり前のようにナツがソファでくつろいでいた。
「レビィ……お前…帰省してるんじゃなかったのか?」
「あ。あ。あ。…えっと〜ぉ……。」
「ナツ!あんた明日早朝からS級クエストに行くんでしょ!なんでこんなところにいるのよ!」
「明日早朝から行くから今いるんじゃねぇか。ルーシィ、バカだろ?」
「なっ…だからってなんでいるのよっー!!」
「ルーちゃん!落ち着いてっ!わ、私はルーちゃんに話したいことがあって帰省する前に寄ったんだー。ナツもルーちゃんに用事?」
「おー。今回はオレらだけでクエスト行くからなー。…たくあのジジィ、ルーシィを弱いもの扱いしやがって…」
「だから……、それでなんで私の部屋に……」
「……拗ねてねーかなーと思って。」
「子供か!私は!」
「あはは。大丈夫だよ。ルーちゃんずっと元気だったし。……あ!!」
「ん?」
「どうしたの?レビィちゃん?」
「そういえば、前に皆の魂が入れ替わった時って…ナツが依頼書の古代文字を読んでしまったのが原因だったんだよね?ルーちゃん?」
「…そうだけど………あ。」
ナツが、一度古代文字を読んだことがあることに思い出した二人は、今回の仕事にナツが何か役に立つかもしれないと
ナツを見定めるようにジィと睨み始めた。
急に無言で睨まれたナツは、戸惑いながらもいつもの癖でファイトポーズをとって身構える。
「な……なんだよ……?」
「ナツ。あの古代文字ってイグニールさんが教えてくれた文字だったんだっけ?」
「…?…そうだけど…」
「あの文字以外にも知ってる字とかある?いや…でも…ナツはS級クエストだし…とゆうかナツに協力なんてー…。」
「……ルーちゃん、最後のは声に出さなくていいよ。」
「なんだよ?協力って。」
「「……………」」
ルーシィとレビィはお互いに目配せをし、深く頷いた。
「「やっぱなんでもない。」」
「……はぁ!?」
「ごめんねナツ。今の忘れて。ナツはこれからS級クエストに行くんだし、それに集中してほしい。無事に、帰ってきてね。」
「……は?ちょっとまて。」
「ルーちゃんの言うとおりだよ。マスターが直々に指名するなんて今回はよっぽど大変な仕事なんだと思う。
ちょっと最近読んだ小説の中に出てきた話で、古代文字についてルーちゃんと盛り上がってて…。大したことないことだから気にしないで。ね。」
「……ふーん。」
ナツは二人の様子にどこか訝しいと思う部分があったが、深く考えないことにした。
二人に背を向け、ひょいと窓枠に飛び乗ったところで少し振り返る。
「ルーシィ!帰ってきたら今度は一緒に仕事行こうな!」
そう告げた後、ニッと満面の笑顔を見せたナツは窓から飛び降りていった。
しかしそれは、叶わない思いであることを。
あの時にもっと問いただせばよかったと悔やむことになるのを。
ナツは気づく由もなかった。
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