張り巡らされた罠 [ 10 ]

どこまで走ったのだろうか。
ナツは息を切らしながらルーシィを壁際に下ろし、地面にへたり込んだ。

地面に向かって荒い呼吸を続けるナツの存在を近くに感じるためか、
ルーシィは何も見えない暗闇の中でも恐怖を感じなかった。

闇の中で、ナツは息を整えながら何度も何度もルーシィに想いを伝える。


「だ、だから!わかったってば!」
「本当に、わかってんのか?」


ルーシィの目の前に小さな炎が灯される。
真っ暗で何も見えなかった視界から指に蝋燭ほどの小さな炎を浮かべたナツの姿が浮かび上がる。
ナツは、心配そうにルーシィの顔を覗き込んでいた。


「……わかってんなら他に言うことねぇの?」
「え、えっと、わかったけど急な展開についていけてなくて、考える時間がほしい、かな。」

「……へ?何を考えるんだ?」
「何って、告白の答えでしょ?」

「……ん?」
「え??……さ、さっきのは、やっぱり告白じゃないってオチ!??」

「はぁ!?やっぱりわかってねぇじゃねぇか!」


不機嫌を満開にしたナツはジリジリとルーシィとの間を詰めてくる。
その近さに慌てたルーシィは、ナツの動きを止めるように両の掌でナツの顔面を押し潰した。


「ちちち近い!」
「…………オレは別に、ルーシィの答えがほしくて言ってんじゃねぇんだよ。」

「へ?」

「ルーシィに意識させるために言ってんだ。ルーシィの気持ちは聞いてねぇ!」
「ナツ……意味がわからないんだけど。」

「だから!オレを意識させるためだっつってんだろ!ルーシィの気持ちはこれから変えるから今聞く意味ねぇだろ!?」
「………………」

「ルーシィは何も考えなくていいんだよ。今まで通りにしてくれれば。」
「……今まで通りでいいんなら何でここまでして…」

「ルーシィが鈍感過ぎるからだろ!!」
「あんたがわからなさ過ぎるのよ!?」

「だからルーシィでもわかるように言ってんじゃねぇか!大体"やっぱり"とか"告白じゃないオチ"ってなんだよ!」
「あんたがいつもそうやってその気にさせるようなことして振り回してきたからでしょーーー!??」

「はぁ!?知らねぇよ!そう思ってたんなら、その時に確かめろよ!」
「できるわけないでしょ!?撃沈するのわかっててやるバカなんていないわよ!!」
 
「なんだよ撃沈って!言ってくれれば、オレだってその時に言えたかもしんねぇだろ!あいつらにばれる前に!
そしたらもっと早くルーシィをオレのものにできたかもしれねぇじゃねぇか!」

「な…………」

「こうなったのもルーシィのせいだからな!責任とって、今まで通りにしろ!」
「なんかおかしくない!?そもそもこんなこと言われて今まで通りになんてできるわけないでしょーー!??」

「なんでだよ!?今まで通り家に行くからな!着替え中だって風呂中だって関係な…」


ナツの言葉にカッとさらに顔を上気させたルーシィがその言葉を遮るように渾身の右ストレートでナツの顔面を叩き込んだ。
拳が顔にめり込むような衝撃の後に、ナツが痛みを抑えるように片手で顔を隠すのを見ながらルーシィはワナワナと体を震わせながら心の底から叫んだ。


「あああああれは!!やっぱりわざとだったの!!?家の中でリサーナがあんたに言ってたの聞いてたんだからね!!!」

「…い……てぇ………わざとに決まってんだろがルーシィの鈍感……」

「な!?ななななななにそれ!?バカ!変態!ナツはそんなことに興味持たないと信じてたのにーー!!!」

「おー。興味ねぇよ。ルーシィ以外。」

「な…………バ………っ………」

「ルーシィがすきなんだ。だから意識してほしいけど、意識して離れていかれたらいやだ。」

「……そ…………な………」

「今回はちょっと失敗してあいつらにばれちまったけど……次はばれねぇようにがんばるから。覚悟しろよルーシィ。」


何をばれないようにどうがんばるのか。
ルーシィはこれ以上は聞きたくないような聞いておかないといけないような複雑な心境に陥る。
頭に熱が昇っていくのは、恥ずかしさからか、怒りからか、頭の中が整理しきれないまま
ナツを睨み罵倒したルーシィに向かって、ナツは、いつもの底抜けに明るい笑顔を返した。
その笑顔を見ると、つられて笑ってしまう。

僅かに微笑んだルーシィの顔を見て、ナツは家の前に出くわした時のルーシィの様子を思い出した。
自分の気持ちを知ったルーシィが目も合わせずに後退るのを見て、このままいつもの様に話すことも、
一緒にいることも、笑い合えることも、なくなるのかと不安になった。
だけど、状況が変わってもこうやってルーシィは変わらず接してくれる。
いつもの様にいつものテンポで会話だってできた。


一緒にいられる関係が崩れるのが怖かった。ルーシィが離れていくことが一番怖かった。


でも大丈夫だ。


「キシャアアア!!」

「え………きゃぁあああ!??」
「うぉ!?コイツ付いてきてたのか!」



突然トンネル内に響きわたった威嚇の声の後、巨大モグラがのっそりと暗闇から現れる。
ルーシィとナツは、即座に立ち上がり身構えた。


「ナツ!この話はとりあえず置いといてあげるから、今度はちゃんとやっつけて!!」
「おう!任せろ!!」


俄然やる気が増したナツは、全力で火竜の咆哮を放った。


「キシャァアアア!!」


しかし、先ほどまともに食らったことで学習したのか、モグラは壁に向かってものすごい勢いで穴を掘りだし、
盛り上がった土塊で炎を塞ぐ。そしてそのまま穴を掘り進めていく。
ナツは、穴の中に消えていくモグラを掴まえようと背後に回り込むが、土を掘る際に払い除けられる土塊を
真正面から受けてしまい、その土の量と威力に一瞬目を回し、バランスを崩して倒れこんでしまった。
そして、モグラが払い除ける土によってどんどんナツが埋もれていく。


「ちょ……ちょっと!ナツーー!」
「…がはっ!!あ、危ねぇ!窒息死するところだった……。」
「早く!追うわよ!」
「……くそ!あのやろう、ぶっ潰してやる!」


土まみれになった二人は、モグラが掘り進めた穴を走り抜ける、と横に広がる違う通路に出た。
トンネルの構図を熟知しているモグラを追って掴まえるのは難しい。
だがここには匂いで獲物を追えるナツがいる。
複雑に入り組んだトンネルの中、ナツは迷わずに走り続けた。ルーシィは、黙ってその後に付いて行く。
しばらくすると、ルーシィがトンネル内の僅かな変化に気付き、慌てて声を上げた。


「ナツ!だんだん明るくなってきてない!?」
「そぉか!?」
「うん間違いない!明るくなってる!もしかして、外へと続く穴が近くにあるのかも!」


確かに辺りはどんどん明るくなっていた。
ここに落とされてからそんなに経っていないはずだが、光を見ると長い間ここに閉じ込められていたような感覚になる。

そして地面は少しずつ上へと傾斜していく。
四つん這いになって進まないと倒れそうな角度になった頃、まるで夜中に太陽が落ちてきているようなとても眩しい大きな光が見えた。


「ナツ!」
「いたぞ!あのやろぉーー!!」


眩しい光の近くに大きなものが動いているのが見えた。
闇の中にいたせいで、目が完全にやられたが見失わないように目で追いかける。追いつこうと進む。
すると、その光の先に星のようにきれいに瞬く光が、いくつも見えた気がした。


その直後。


悲惨な破壊音と共に、岩や木、そして氷の刃が大量に降り注いだ。



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