張り巡らされた罠 [ 6 ]

「う゛ぷ……き、気持ちわる……。」

「ナツ……乗り物酔いも相変わらずだね……。」


窓に垂れ下がり、苦しそうに唸るナツの背中を隣に座るリサーナが擦る。
その隣ではグレイが、耳障りだ寝てろ!とナツに悪態をついている。
ナツの向かいには、ナツを寝かそうと拳を握り立ち上がるエルザ、
そのエルザの隣に魚を食べながら鼻歌を歌うハッピー、
そして、そのハッピーの隣のナツから一番遠い場所に、ルーシィがいた。

エルザの慈悲深い攻撃により、ナツは安楽の眠りについて壁に寄りかかる。
そんなナツをリサーナは心配そうに見上げていたが、ルーシィはナツが眠ったことで漸くほっとし、リサーナに話しかけた。


「ごめんねリサーナ。急に一緒に来てほしいだなんて頼んで…」

「……ん?あ、いいよいいよ!私も暇だったし。このメンバーで仕事するのも初めてだし、一緒に行けてうれしいというか…なんか楽しみ!」

「しかし、エドラスから帰ってきたばかりで、大丈夫か…?向こうでは魔法を使わない生活だったんだろう。
フォローは私がするから何かあれば直ぐに言ってくれ。リサーナに何かあれば……ミラに、殺されそうだからな……。」

「あはは。ありがとうエルザ。」

「俺も手助けするぜ。今回の仕事はモグラ退治だから、動物の習性をよく知ってるリサーナがいてくれて助かるが…、
戦闘になるとやばくなるかもしれねぇからな。」

「ちょっとぉー、モグラ相手に苦戦するわけないじゃない。私だってミラ姉に鍛えられてきたんだから、そこまで弱くないわよ?」

「あーそうだったな。悪ぃ悪ぃ。」


グレイとリサーナが笑う。
エルザがリサーナがいなくなってからのミラジェーンの話をリサーナに聞かせ、再び暖かい笑いに包まれる。
その様子にルーシィは、顔を綻ばせ緊張していた先ほどとは違い、穏やかな気持ちになれた。

(でも…どうしてだろ、ちょっとリサーナがうらやましいな…。)






モグラの被害は農作物だけでなく、近くの山にまで広がっていた。
依頼人によるとそのモグラは利口で、掴まえることはおろか姿を確認することもできないらしい。
土の保水力が減り、農作物が枯れていく中、その農地には穴が点在し、トンネルが張り巡らされていたことで、
モグラの仕業ということがわかったのだが、どんな罠を仕掛けても掴まえることができずにいた。


「穴の大きさからすると1mはあるモグラだと思います…。
モグラが開けた深い穴にはまってしまう子供達も増えてきて……どうかよろしくお願いします。」


依頼人である町長が頭を下げる。
毛が抜け始めている頭をダイレクトに見せ付けられ、皆は、町長の頭に釘付けになったまま任せてくださいと、たどたどしく答えた。
そして、一向はエルザの提案で農地や山の様子を調べに行く。


「ねぇルーシィ?」


乗り物酔いから抜け切らずフラフラと前方を歩くナツを眺めていたルーシィにリサーナが小声で話しかけてきた。


「ん?なにリサーナ?」
「どうして私をこの仕事に呼んだの?」

「…あーー、うん。リサーナがいたら…安心できるかなって思って。ごめんね?なんか。」
「…ううん。さっきも言ったけど私は全然いいんだよ。でも気になって。私そんな戦闘要員でもないのに安心する?」

「うん……。いつものメンバーのままだと気まずくて……。それにリサーナはナツのことよく知ってるし……きっとフォローしてくれるって。」
「ん?……してくれるって?…誰かが、そう言ったの?」

「うん、ミラさんが。いつもミラさんにはお世話になってるんだー。」


えへへ、と恥じかしそうに笑うルーシィは、リサーナにギルドに入る前からずっとミラジェーンに憧れていた話をする。
ルーシィの話を聞きながら、リサーナは心の内側でそっとミラジェーンに謝った。


(ミラ姉の気遣い…かな。……でも、私は……ごめんミラ姉。)


リサーナは、ミラジェーンの気持ちを振り切るように、頭を左右に振る。


「ん?どうしたの?リサーナ。」
「ね、ルーシィ。ナツのこと、どうなの?」

「……え???……ど、どうって……………わ、わからないよ………。」
「今まで、意識したこととかなかったの?」

「え゛!?………いや………えっと。」
「あ、あるんだ?」

「えぇ!??…ち、ちが……あれは勘違いで!ミラさんが変なこと言うから!」
「え??ミラ姉??ミラ姉が何を言ったの??」

「え………だから…………ナツが私のこと好きなんじゃないかって………」
「うん。合ってるよね。」

「っ!?…………合ってなかったの!そのときは!!」

「ううん、合ってたと思うよ?ルーシィはわからないと思うけど、ルーシィにだけ接し方が微妙に違うんだよね……。
変に素っ気無いとゆうか……だからルーシィだけ気付けないんじゃない?周りは自分との接し方の違いで気付くけど。」

「へ!?……そんなはずない!
だっていっつもハッピーと一緒になって私をからかって、女扱いしないし、事あるごとに自意識過剰だとか言って……」

「ナツと私の話、ちゃんと聞いてた?だからそれは、作戦だったんだって。ナツってルーシィがいないところでは楽しそうにルーシィの話をしてるよ?」

「ええ!?」

「ハッピーが言ってたんだけど、ナツと二人で出かけて、面白いもの見つけるとナツってすぐにルーシィのお土産にしようとするんだって。
ルーシィの知らないところでナツは、結構ルーシィのこと考えてるよ?」

「…………」

「あ、あれだ。ツンデレ?…うんナツって、ツンデレなのかも?ルーシィの前では"ツン"でルーシィがいないところでは"デレ"だから。」

「…………」

「あ、それに、小さい男の子って好きな子ほど苛めるよね、だからかも。ルーシィの前ではデレデレできないのよ。」

「…………」

「…………」

「…………」

「……大丈夫?ルーシィまた顔、真っ赤。」

「う?……うえぇ??…えええっと」


沈黙の後の急な指摘に、思わず変な声を上げるルーシィにリサーナが笑いそうになったところで炎を纏いそうな怒気が近づいてくる。


「リサーナ!だれが"小さい男の子"だって!??」
「あ。ナツ。聞こえた?」

「リサーナはオレがどんだけ耳いいのか知ってるだろ!そんな直ぐ後ろでしゃべられたらヒソヒソされてもハッキリ聞こえるんだよ!!」
「……そうだったっけ??……………で、他は否定しなくていいの?」

「…………」
「…いいんだ?ナツも、顔真っ赤!!」


咄嗟に言い訳が出てこず何も言えないナツに対して、今度こそリサーナはかわいい声を出して笑う。
そんな三人のやり取りを前方でチラチラと盗み見るハッピーにグレイがそっと目配せをして、何かを知らせると同時に声を上げた。


「おい!あそこに黒い影が!モグラってあれじゃねぇか!?」

「うわぁー!?ほんとーだー!!オイラの10倍はあるよー!?」


グレイとハッピーの声に、ナツとリサーナとルーシィが駆け寄る。


「モグラどこだ!?」
「どこ!?どこどこ!?」
「ちょっとハッピーの10倍って、怖いんだけど!?」


ナツとリサーナの後ろから恐る恐る覗き込むように近づくルーシィに突然エルザが声を上げた。


「る、るるるルーシィ!そそそそこは穴が!ああああ危ない!」

「…は?…………って…きゃあぁああぁ!!??――――――――――――

「あああああ、こここここっちにもああああなが…ああったのかぁぁぁ…。」

「何!?その棒読み!?」


エルザが穴からルーシィを遠ざけようと、突き飛ばした先にあった穴にルーシィは落ちる。
エルザのあまりにも不審な棒読みと、どもり具合にリサーナが青褪めて突っ込んだ。


「おい!!ルーシィ大丈夫かー!!」


ナツが、慌ててルーシィの落ちた穴に駆け寄り覗き込む。
その後をグレイも追い、同じように穴に覗き込もうとし、


「おお!?手が滑ったーぁ!」


思い切りナツを穴の中へと蹴り飛ばした。


「っっが!?…なにすんだグレイィイ――――――――――――


ナツが落ちていきながら、ハッピィイイーーーー!!!と叫ぶのが聞こえた後、
グレイが穴の中に向かって叫ぶ。


「じゃなくて足が滑った!悪ぃなナツ!ワザトじゃないからなーーー!!」

「な、な、な、何してるのグレイ!??ハッピーも!助けに行かないと!!」


リサーナが、青褪めたままハッピーを顧みる。ハッピーは、リサーナの言葉に真剣な表情でピシっと片手を挙げた。


「リサーナ大丈夫だよ。この穴の中は調査済みだから!」

「………………え???」

「よし、埋めるか。」

「…うむ。」
「あい!」


「……何言ってるの!?皆!?」



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