張り巡らされた罠 [ 2 ]
「…あーー。……えーと。………ルーシィ?」
「話しかけないで!今夢から覚めるために集中してるんだから!」
珍しく逡巡し恐る恐る話しかけてきたナツの様子に気付かずに、ルーシィは激しく言い放つ。
両手でこめかみを押さえ目を瞑ってウンウン唸りながら目覚めようと集中するルーシィをナツはしばらく呆れ眼で見ていたが、
待っていてもこちらに構う気配が一向に来ないと悟り、ナツは何かを諦めたように目を瞑り、深く溜息を零した。
「あーー………リ、リサーナが言ってたことは…き、気にするなよルーシィ?」
「…へ?……………き、聞いてたの?」
「聞こえてきたんだよ…。リサーナに恋人かって聞かれて、オレも驚いたんだけど誤解を解くのがめんどくせぇからそうだって言ったんだ。
……だから気にするなよ?」
「…はぁ!???」
「あ、いや、だから…説明めんどくせぇし。違うって言ったら家に遊びにいくこととか、怒られるかもしれねぇし!
…くどくど説教始まったらめんどくせぇだろ…。」
「……………」
「…それでなくても、リサーナは昔からオレをガキ扱いしてからかってくるんだよ…
こっちばっか、からかわれっぱなしってのもムカつくし…。
あれから2年も経ってんのにまたからかわれるのも……癪じゃねぇか。」
「……………」
「……オレだって成長してんだ、ガキのままじゃねえ。だから言ってやったんだ!リサーナのやつ、すっげぇ、驚いてたぞー!」
ルーシィは、ナツの思いがけない発言と思い出してニシシと楽しそうに笑う笑顔を見て呆気に取られるものの、
沸々と黒い感情が込み上がっていくのを感じ取っていた。
――― そんな理由で? ―――
「…だからって…私を巻き込まないでよ……?…なに?なんなの?リサーナを、見返したかったの………?」
「ん?」
「リサーナにナツも成長したって、思ってもらいたかったの?そのために私を使ったの?」
「…あ…………いや………えっと。」
「そのためだけに!?なんなのよ!!一瞬!本気で!
いつの間にか私だけが知らない状態でナツと恋人になってたのかと思っちゃったじゃない!どうしてくれんのよ!」
「……えっと……だから!オレもびっくりしたって言ってるだろ!?まさかギルドの皆がそう思ってたなんて!!
リサーナに聞かされてオレがどんだけびびったか知らねぇーだろ!!」
「私の方がびっくりしたわよ!てゆうかとりあえず誤解解きなさいよ!このままの方が後々面倒でしょ!?リサーナにもすぐばれるわよ!」
「……………」
「…ちょっと。……なんで急にだまるのよ。」
「……………めんどくせぇよ。ルーシィがやれよ。」
「…はい?……あんたが肯定した上で…、私が否定しても説得力ないでしょー!??
…………え…?こら!?待ちなさいよ!どこ行くのよ!?皆の誤解解いて行きなさいよー!」
ナツは、ルーシィの言葉に急に苦い表情を見せたかと思うと何も言わず立ち上がり、外へ向かって歩を進める。
ルーシィは、慌ててそれを追った。
「ルーシィうるせぇーなー…もーー誤解のままで良いじゃねぇか…。」
「良くないわよ!?何言ってるのよ!?誤解のままで良いことなんてないじゃない!」
「……………」
「ちょっと!!ナツ!聞いてるの!?」
ギルドから出ても尚真っ直ぐ歩き続けるナツは、ルーシィの言葉にソッポを向く。
ルーシィは何としてもナツから誤解を解いてもらわなくてはとナツの前に立ち塞がった。
「ナツ!」
「………ルーシィ…………………邪魔。」
「このままだと仕事行く度に冷やかされて、余計に面倒くさくなるわよ!」
「今まで大して何も言われてこなかったんだから大丈夫だろ。」
「そ!…そう言えばそうね…なぜかしら皆のことだから冷やかし倒してきそうなのに…」
「……どーでもいいわ……………はぁ。」
「……ん?…ナツが、溜息なんて………どうしたの?」
「なんでもねぇ!!」
「な、な、なに急に怒ってるのよ!?」
「怒ってねぇ!!!」
目が吊り上ったままナツはルーシィを片腕で押し退けて、ズンズンと足音煩く進んでいく。
ルーシィは、ナツが不機嫌になっている理由がわからず呆然とその場に立ち尽くしていた。
「本当に恋人じゃないんだ。」
「……わ!??……リ、リサーナ!??いつからそこに!?」
「ふふ、ネズミに変身してコッソリ付いて来たの!そっかぁ皆が勘違いしてるんだね。」
「……うん……そうみたい……。」
「でも皆が勘違いするほど、ナツとルーシィは恋人に見えるってことだよね。」
「そうゆう素振りしてきたとは思えないんだけど……はぁ。」
「ふーん?」
リサーナは、ルーシィを探るように見る。
そしてそのずっと後方では、ルーシィとリサーナを探るように見ている青色の猫がいた。
「オイラ今回こそは上手くいくと思ったのにーー!ルーシィの鈍感!ナツの馬鹿!!なんであそこで本当のこと言わないんだよぉ!
もうオイラいい加減ルーシィに全部言いたいよ!」
「堪えるんだハッピー!今までのナツの努力が無駄になるだろう!」
「わっ!!…び、びっくりしたぁーーー…エルザいつからそこにいたの!?」
「…よぉっっっし!!!またダメだったみてぇだな!!しかしナツも馬鹿なヤツだな、こんな絶好のチャンス二度と来ねぇぞ。」
「あれグレイまで!??…って……グレイなんかちょっと喜んでない……?」
「……へ?そ、そりゃー……お、おもしれぇからに決まってるだろ!!?
あいつ、周りから固めてルーシィが逃げられない状況にしていってる割には最後の一押しができねぇからな!馬鹿すぎるだろ?」
「まったくだ………いつまで時間をかけるつもりなんだナツは!!そもそも男なら真っ向勝負で行くべきだろう!!」
「もぉー!それができないからこうなってるんじゃないかぁ!!相変わらずルーシィは気付いてないけど、
リサーナは騙しきれなかったみたいだし…。オイラ心配だよぉ…。」
「リサーナはナツと仲が良かったからな。………もしかしたらナツに直接言いに行くかもしれないぞ。どうする、ハッピー。」
「うん。オイラに作戦があるんだ。二人とも…協力してくれる?」
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