暴走するジェミニ [ 8 ]
一人のナツがルーシィを庇うように立ち、一人のナツがルーシィに近づきながら威嚇する。
ルーシィは、錯乱したように二人のナツを何度も交互に見比べ、ハッピーは開いた口が塞がらず固まっていた。
「…やっぱり来たか!何がジェミニだ!お前がジェミニだろぉが!!」
「遊ぶのもいい加減にしろジェミニ!ルーシィから離れろ!!」
二人のナツが同じ表情、同じ声音で言い合う。どちらも演技には見えない。
「ナツが二人ー!!??」
「違うわハッピー!どっちかがジェミニなのよ!…ジェミニ?何してるの!?」
「ジェミニならルーシィが強制閉門すればいいんじゃないの!?」
「私呼んでないもの!勝手に出てきた星霊を強制閉門できないわ!」
「エエェーー!!?」
突如起こった事態に着いて行けず、慌てるルーシィとハッピーに対し、
二人のナツは苛立ちを露にするものの、冷静にもう一人の自分を対処しようとしていた。
「ジェミニ!ルーシィが怒ってんぞ!帰れよ!」
「てめぇがジェミニだろうが!!ルーシィに余計なこと言ってねぇだろうな!!」
「どっちがナツー!??………そうだ!!オイラの好物言ってみて!」
「「……………魚だろ。」」
「……ハッピー、そんな簡単な質問でどっちがナツかわかるわけないじゃない……。」
「…ぁうう…」
ルーシィはハッピーの発言に脱力し、ハッピーは自身の両手で両耳を押さえ、反省のポーズをとる。
その様子を見ていた二人のナツは、急に何かに気付き、声を上げた。
「…はっ!…しまった!!そういえばハッピーの魚、湖に忘れてきちまった!!」
「…ぁああーー!高級魚が!!取りに行かねぇと!!」
「なっ…ジェミニ盗むつもりか!??あれはオレとハッピーが食うんだ!!」
「オレがハッピーと食うんだ!!!…どけ!!」
「高級魚ーー!!?なにそれナツー!??」
「「……ハッピー!ルーシィを見ててくれ!」」
「…何よそれ!?私、魚盗ったりしないわよ!?」
そうじゃねぇ!ジェミニが!ハモるな気色悪ぃ!ついてくんな!等と二人のナツは、自分と言い合いながら窓から出て行く。
ルーシィが二人が出て行った窓から覗くと、川沿いの道を二人のナツが競うように走り去って行くのが見えた。
「………何だったの…?……てか、窓………」
「よかった。追い出すのに成功したみたいだね。」
ルーシィが呆然とナツが見えなくなった道の先を見ながら呟くと、すぐ隣で声が聞こえた。
ぎょっとして横を見ると獅子宮の星霊が腕を組みながら同じようにナツが消えた方向を見ている。
「ロキ!?また勝手に!今日は一体何なの!??」
「……ごめんねルーシィ。窓、直してあげる。」
獅子宮の星霊はニッコリと笑顔を見せ、外れてベッドに横たわっていた窓をはめ込もうとする。
「あ、ルーシィ手伝わなくていいから……ハッピー、ナツを追いかけなくていいの?」
「あい!高級魚っていうのが気になるけど……ナツがここにいろって言うからここにいます。」
「ジェミニにその高級魚盗られちゃうかもしれないけど、いいの?」
「エーー!ジェミニも魚が好きなのーー!?」
「いや、それはどうかわからないけど、ナツと一緒に行っちゃったじゃないか。」
「…お、オイラ行ってきます!!」
ハッピーはエーラを広げ、獅子宮の星霊がはめ直した窓から慌てて出て行く。
その様子を見送った獅子宮の星霊は満足そうに頷いた。
「もーー、何だったのよ一体。ジェミニはナツに変身して何してるのよ……。」
「うーん、君と遊びたかったのかもしれないね。星霊界でも時々拗ねていたようだから…。」
「はぁ??…なにそれ……。」
「僕だってそうさ。もっと呼んでくれたらいいのにって思うよ。」
「ロキは勝手に出てきてるじゃない。…って何!??」
獅子宮の星霊はルーシィに近づき、壁へ追い込もうと進む。
ルーシィはいつものことだと思いながらも何かが違うと予感が走り、身構える。
「……ルーシィ。古文書の力がなくなって本当によかった。」
「え?…あ、うん。」
「心配だったんだ。でもあの状態で自分の力で出てきたらどうゆう状態になるか予測できなかった。
暴走して、ルーシィを傷つけることになったらと思うと手が出せなかったんだ。」
「…う、うん。別に気にしてないから。だ、大丈夫よ、ロキ。」
「フェアリーテイルの皆を信じていた……でもルーシィが、その後もナツのことで 悩むことになるとわかっていたら…。」
「…え!?…べ、別に悩んでなんか…!」
「………ルーシィ、ナツのこと考えられないようにしてあげるよ。」
「………ぇ?……えぇ!?」
獅子宮の星霊は、真っ赤になり慌てるルーシィの手をやさしく握る。
そしてゆっくりと近づき、顔を傾ける。
ルーシィは今まで体験したことのない状況に固まり、近づく獅子宮の星霊の顔を目を逸らせずに眺めることしかできない。
二人の息が、触れ合う。もうだめだ、ルーシィが覚悟に近い気持ちを抱いた瞬間、視界が遮られた。
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