暴走するジェミニ [ 6 ]

双児宮の星霊は、必死になっているナツと獅子宮の星霊を交互に見ながら考えていた。
そもそもナツに変身したのは、ナツの心を読んで惑わして止めるか、この姿でルーシィの元へ向かいナツの気持ちを伝えて危険を知らせようと考えていたのだが……。
変身したことによってナツ自身が自覚していない気持ちを知り、
邪魔したい、ひやかしたい、からかいたいという気持ちが湧き上がってしまった…。


(仕方ないよね。だってこんなおもしろいこと見逃せないよ。)


しかし、獅子宮の星霊の行動には予想外で、ルーシィを守ることに関しては味方のはずだった彼が、いきなり敵にまわったことに関して戸惑いを感じる。


(レオは恩人であるルーシィに特別思い入れがあるのは知ってるけどね…)


過保護からくる感情なのか、それとも別の感情なのか……双児宮の星霊は改めて二人を眺める。


(……それにしても………何この状況………すごい…おもしろい!!)


お互い掴んだ腕を決して離そうとせず、トライアングルの形になっている様を見て、双児宮の星霊はそのまま三人で
ステップを踏みクルクル回りながら踊り出したい心境を必死に抑える。
さすがにそれをすると必死になってる二人から一斉に攻撃される気がした。


(…でも……これをもっとおもしろくしたい………)


双児宮の星霊は、ワクワクと高鳴る感情を抑えられずに目を輝かせた。





獅子宮の星霊は、双児宮の星霊が遅かれ早かれある行動に出ることを予測していた。


(…………その一瞬の機会を逃さない…。)


これ以上混乱を起こさないためにも、この事態を収拾するためにも、その一瞬にかかっている。
仲間である星霊を護るため、オーナーであるルーシィを護るため、獅子宮の星霊は双児宮の星霊が行動に移すのを待っていた。


(その時に全てを賭ける。そして、ルーシィには指一本触れさせない。)





ナツは、必死に二人を掴みながらも混乱していた。


(………なんでオレこんなに必死になってんだ??)


ルーシィの気持ちを知ることができ、もう一度キスできればずっとイライラと悩んできたことから解放されるかと思っていたのに。


(ジェミニもロキもルーシィを守るとか言っておいて、自分達が楽しもうとしてんじゃねぇか。)


イライラが募る。これはきっと自分の行動を邪魔されているからだ。
だが、この二人にルーシィがキスされることを思うとさらにイライラが募る。


(オレは悩んでんのにコイツらは遊びでやろうとしてるから…)


だからイライラする?
二人がルーシィにキスするのをまた想像して、全身に怒気が重く降り注いだ。


(…………コイツら遊びで………オレは真剣なのに………)


でもそれだけでは説明できないほどの苛立ちとこの二人を行かせたくない焦りが渦巻く。
再び自分に対して疑問が浮き上がりその度に自分に答える。
その繰り返しに何やってんだと混乱し………



「………だあぁぁぁぁああ!!!めんどくせえぇぇぇえええ!!!!」



突然、ナツの全身に炎が吹き上がった。
身を焼く熱さに思わず獅子宮の星霊はナツから手を離す。
その一瞬の後、双児宮の星霊も同様に炎を纏い獅子宮の星霊から解放された。


「…しまっ……!!」


獅子宮の星霊が自分の行動に後悔する間もなく事態は急速に動いた。

炎の熱さから生まれた獅子宮の星霊の一瞬の油断をつき、ナツがみぞおちを思い切り蹴り上げる。
それに加勢するかのように双児宮の星霊もまた、崩れかけた獅子宮の星霊の頭部に炎を纏った衝撃を容赦なく打ち落とした。
ナツは、獅子宮の星霊が地に崩れ落ちるのを待たずに走り出す。
その様子を真似るように双児宮の星霊が後を追う。


「………ついて来んじゃねぇ!」
「お前がついて来んじゃねぇ!」


「「オレの真似をするな!!」」


「っっ!??………気色わりぃっ!はもるなっジェミニ!」
「…あははーー!おもしろーい!!」

「他で遊べよ!!!……グレイとかいるだろ!」
「やだよー。今のナツすごいおもしろいよ!」

「オレはおもしろくねぇっ!邪魔するなら、ルーシィの星霊だからって手加減しねぇ!!」
「いいよーー。」


挑発に乗った双児宮の星霊に、走る速度は緩めないまま炎を纏った腕を薙ぎ払う。
と、同時にぶつかり合う同じ炎の衝撃。


「バカだねー。考えも能力もコピーされてること忘れてる?」
「……っ!……このことルーシィに言いつけるぞ!!?」

「その前にボク達が言いつけるよ。ナツがルーシィを襲おうとしてるよーって。」
「なっ!?………ち、違うだろ!オレになってんならわかるだろぉが!!」

「…うん。わかるよ。ナツはわかってる?」
「………は?」

「なんでキスしにいくの?ボク達を止めたいの?」
「…………だからそれは…………」

「なんでモヤモヤするの?もう一回したいって思うの?」
「………」

「ボク達にはわかるよ。ナツがわかってないこと。」
「…ぇ…」

「ね。だから。ナツがわかる前にルーシィに、言ってあげる!!!……ナツはルーシィから後でゆっくり教えてもらうとイイよ!」
「…………………はぁ!??」


ナツの速度に合わせ走っていた双児宮の星霊は急に立ち止まる。
それに合わせ、ナツも立ち止まり振り返った。


「ナツ忘れてる?ボク達は星霊界からオーナーのことがわかるんだ。星霊界を通ればナツより早い。」
「あ………。」

「ボクが一番だ。残念だったねナツ。」


双児宮の星霊は、ナツがいつもルーシィにむける底意地の悪い笑顔をナツに向け、きゅるんと音を立てて消えた。



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