8月15日(角都)
今日は8月14日。特に何かあるわけではないが、明日は違う。明日は私の大好きな角都の誕生日なのである。一体何歳になるのか、ちょっと数えるとなると相当な時間がかかってしまうけど、間違いなく90超えのご長寿だ。立派なおじいさんである。本人に言ったらぶん殴られそうだけど。
その角都の誕生日に一体何をしたら喜んでもらえるのか、ここ一ヶ月毎日悩み考えていたが、答えは見つからないまま前日を迎えてしまった。困り果てているところに、一人の人物を思い出した。角都の相方の飛段である。飛段は一体どうお祝いするつもりなのか、聞くだけタダだし聞かない手はない。そうと決まれば、走って飛段のところへ向かった。
「ひっだーん!」
「おおっ、椿ちゃんじゃねーか。どうしたんだよ。あ、ついに角都に愛想を尽かして、俺の良さに気がついたのか?」
「違うわ馬鹿。角都に愛想を尽かすとか死んでもないわ。そうじゃなくて、明日は角都の誕生日でしょ?飛段はどうお祝いするのかなって思って」
そこまで話すと、飛段の笑顔がピリついた。そして徐々に顔を青ざめさせていった。
「角都……?誕生日……っ、しまったぁぁぁ!!俺としたことがすっかり忘れてたぜ!」
「はぁ!?嘘でしょ、相方のクセに!?」
「うっせー!そういうお前だって角都ラブとかほざいてるクセして、まだ準備出来てねーんだろ!?」
「うっ……だって思いつかないんだもん!お金を渡せば確実に喜ぶけど、生憎金欠で……」
「しかも大金じゃねーと喜ばねえだろうしなぁ……あ、裸の椿にリボン結んでプレゼントするとかぐへっ!」
とんでもない事を言い出す飛段を容赦なくぶん殴った。そんな事して角都が喜ぶ筈がないじゃないか。何ならドン引きされて嫌われるオチまで見えてしまったわ。やっぱり相談相手間違えたか……と再び頭を悩ます。
「それか角都の好物でも渡せば喜ぶんじゃねーか?」
「好物って……レバ刺しとか?何か角都の好物って手軽に買えるイメージがないんだよねぇ」
「まぁなー……それかジャシン教グッズもアリだと思うけどな」
「いや絶対ゴミになるでしょ。角都が喜ぶとお思いで?」
「いやぁ……ねえよなぁ、ゲハハ!」
「笑ってる場合じゃないでしょ!あーもうっ、どうしよう!」
頭をぐしゃぐしゃにして悩み抜いていると、どこからか足音が近づいてきた。悩んでいたら誰かが来るという、よくある展開である。
「……あ、イタチ!」
近づいてきたのはイタチであった。私と飛段の様子からして面倒な事であるのを察したらしい。目があったと同時に回れ右をするイタチの肩を、ガシッと掴んだ。
「ふふふ、ここに来たが最後。私達の餌食になってもらうわよ……!」
どこぞのラスボスだと言わんばかりの台詞を吐いてしまったが、そんな事は関係ない。イタチなら、的確なアドバイスをくれるような気がしたからだ。飛段もゲハゲハ笑っている。あ、いつものことか。
「……なんだ、俺は暇じゃないんだが」
「何か用事でも?」
「今日はサスケが他国へ任務で行くらしくてな、ついていかない訳にはいかんだろう」
いやいやストーカーかよ、と突っ込みたい気持ちをグッと堪えた。それにサスケが他国だろうがどこへ行こうがイタチがついていく必要は絶対にない訳で。ていうか弟に命狙われている事を忘れているのだろうか。
「そんな事より!明日は弟くんより大事な暁のメンバー、角都の誕生日だよ?プレゼント何がいいか今悩んでてね」
「サスケより大事な……?そんなものある訳ないだろう。しかも角都の誕生日なんて微塵も興味がないな」
「おいおいおい!お前それでも暁の一員かぁ!?暁ならな、メンバーの誕生日を盛大に祝うのは当然だろうが!」
盛大に祝うかは別として。ていうか特に接点ないメンバーの誕生日まで祝ってないし。だからイタチは、鼻から角都の誕生日を祝う気はサラサラなかったのだろう。
「いいわ、これを機に角都のお祝いを一緒に考えてもらおうじゃないの!」
「ナンセンスな……時間の無駄遣いは好まない」
「今日のご飯はイタチの好きな昆布おにぎりとキャベツ出してもらうようにするから」
「仕方ない。少しだけだからな」
「あれ、イタチってこんな単純だっけか……まぁいいや。で?何か良い案あるかぁ?」
「角都と言えば金だろう。それか額のいい賞金首か……しかし、椿」
イタチは少し考え込んだ後、ちらりと私へ目を向けた。
「ん?」
「お前から貰うものなら、角都は何であれ喜ぶんじゃないか。角都が一番好きなのは椿だろう」
「え……えぇっ!?そ、そうなのかな?そんな自惚れちゃっていいのかな……!?」
「だから俺も言ったじゃねーかよ。裸の椿にリボン「それは却下」
再び言い出した飛段のとんでもない提案を遮るように制止する。
「そうだ。椿の手作り料理なんてどうだ。滅多にないから喜ぶんじゃないか?」
「あー……いい案なんだけど、私料理出来ないんだよね……」
「小南にでも教わればいいだろう。簡単な物なら俺でも作れるが」
「えっ、イタチ料理も出来るの!?完璧すぎるでしょ……!」
とは言え、角都の好む料理とは何だろうか。何となく和食のイメージがあるけど、本当に好きかは謎である。それにいくら教えてもらったとしても、料理初心者である私の手料理を食べさせるのは如何なものか。デイダラ辺りなら喜んでくれそうだけど、相手はあの角都だ。喜んでくれる想像が全く出来ない。
色々と頭の中で考えていると、一つの案が浮かんできた。
「あ!ちょっと閃いたかも……!」
「え、マジかよ!?」
「うん!という訳で私、今から作ってくるから飛段とイタチは各々で頑張ってね!ばーい!」
「……何なんだ、人を呼び止めておいて」
「ったく、仕方ねーなぁ。じゃあイタチ、俺らで考えようぜ!」
「生憎だが、俺は角都を祝う気は全くない。お前一人で考えるんだな」
私が走り去った後、元々祝うつもりのなかったイタチもそう吐き捨て去っていった。ポツンと残された飛段は「何でだよぉぉ!」と一人叫んだのだった。
*
翌日になり、いよいよ角都の誕生日当日を迎えた。あれからせっせと作っていたプレゼントも無事完成させる事が出来、いそいそと準備していた。今日は午後から賞金首狩りに行くと話していたから、出来ればその前に渡して軽くでもお祝いしようと考えている。飛段にもそのように伝え、今は二人で角都の前に立っている状況だ。状況を理解出来ない角都は不機嫌そうに眉間に皺を寄せている。
「何だ貴様ら。俺はこれから賞金首狩りの準備をしなければならん。いいから退けろ」
「その前に角都、今日は私達からプレゼントがあるの!」
「そうだぜぇ!受け取っておいたほうが得だからな!」
「……なんだ」
嫌な予感がすると言わんばかりに表情を曇らせる角都。
「じゃあ……角都!」
「「お誕生日おめでとーう!」」
どこからか取り出したクラッカーを角都に向かって引き抜く飛段。決して人に向けて引き抜いてはいけません。
「なっ……何だその心臓に悪い音は……!」
「角都、これ私からのプレゼント」
「こっちは俺からだぜ!」
はい、と角都へプレゼントを手渡す。私からのプレゼントは素直に受け取ってくれた。しかし飛段からのプレゼントは横目で見ると、益々眉間の皺を深く刻んだ。
「……開ける前からわかる。貴様のはジャシングッズだろう」
「なっ、ちげーよ!決めつけねーで、ちゃんと開けろよな!」
渋々受け取ると、私と飛段はキラキラした目で角都を見つめた。
「ね、今すぐ開けてくれていいんだよ?ていうか開けてよ!」
「そうだぜ!遠慮しねーで開けろよ、なっ?」
「ああわかった鬱陶しい……!」
詰め寄る私達をうざそうに煙たがりながらも、まずは私のプレゼントを開封した。中から出てきた物は……
「なんだこれは」
「えへへ、私の手作りマスクと手作り家計簿だよ!」
昨日慌てて作った物とはこの二つの事だった。角都はいつも黒いマスクをしているから、たまには違った色もいいだろうとグレーの生地で作ったマスクと、家計簿は角都の必需品だからこれも私が1ページずつ手作りしたのだ。時々お金のイラストつき。
「ほぅ……よく作ったものだな。この家計簿なら文字が大きいから見やすい」
そう、角都の老眼を考えて大きめの文字で作ったのだ。意外と受けが良くて助かった。老眼だもんね、なんて言おうものなら機嫌を損ねるのは目に見えてわかる為、口を噤んでおいた。
「そのマスクも使ってね、私の手作りだから」
「まぁその内使わせてもらうとしよう。……で、問題のこちらだが」
恐る恐る飛段のプレゼントを開封すると、出てきたのはカップや皿などの食器セットだった。しかし、ただの食器セットではない。ジャシンマークが食器全体に散りばめられたデザインである。
「ゲハハ!いいだろ、それ!俺が書いたんだぜ?この食器で飲み食いすれば、誰も彼もがハッピーになるんだぜ!」
胡散臭い商品説明をしだした飛段。しかも手書きのジャシンマークとは。飛段のことだから水性ペンで書いたりしてはいないだろうか。
「……椿、これはお前にやろう」
「えっ、いらないわそんな悪趣味な食器!角都使いなよ。相方からのプレゼントだよ?」
「しかしこんな悪趣味な物を使う気にはならん。手書きなら売ったところでたかが知れているな……そもそも売れやしないか」
「オイオイオイ!売る気かよそれ!あーもういい!俺が使うからよ!」
角都から食器セットを取り上げれば、飛段は大事そうに抱きしめていた。結局自分が一番欲しい物を、角都にプレゼントしたと言うことらしい。結果自分に戻ってきて満足そうだし、良かったのかもしれない。
「しかし誕生日か、すっかり忘れていた」
「やっぱりね。でも私達は忘れてなかったよ」
飛段は前日まで忘れていたが、その事は伏せておく事にした。
「まぁ、椿のプレゼントは使わせてもらうとしよう」
「へへ、良かった!」
特に文句を言わないところを見ると、案外お気に召してくれたようだ。そんな角都を見ているだけで幸せな気持ちになれた。飛段はぶつくさ文句を言っていたが、私も角都もスルーした。
角都が私にしか届かないくらいの小さな声で「礼を言う」と囁き、跳び上がってしまいそうなくらいに嬉しかった。
数日後、アジトではグレーのマスクを着用する角都の姿があったとか。
Happy Birthday, Kakuzu !