in the name of love | ナノ








▼ 01-1

白い肌に絹糸みたいに繊細にきらめく茶色の髪の毛。
加えて、同じ色の睫毛に彩られた色素の薄い琥珀色の瞳。
狭い鼻筋は上品に隆起し、桜貝みたいほんのり色づいた薄い唇が顔を飾り付けている。
そして、それらを支えるのは制服の上からも分かる無駄な肉が削ぎ落とされた身体。

毎朝、身支度をしながら鏡で自分の姿を見つめる。
確実に己の容姿が整っている事は自分自身でも分かっている事。
女子に騒がれているし、連絡先を聞かれたり、呼び出されて告白されたりとかそんな事もざらにある。
でも、そんな事は大した問題ではなくて、いかに儚く病弱なあの頃の面影を残しているかの方が遥かに大切だ。
確認作業を終え、母親が用意してくれている弁当とペットボトルを鞄に詰めて”行ってきます”と挨拶をすると正面のあいつの家へと向かった。

「英二君、毎日ごめんなさいね。あの子、もうすぐ来るから」

玄関先でインターホンを鳴らせば、まるで第2の母親の様に親しい杏奈の母親がでてくる。

「俺が一緒に通いたいって無理言ってるだけなんで、気にしないで下さい」

「いえいえ、英二君が行き帰り一緒だから本当に安心なのよ」

かつては病弱な俺を心配した俺の母親が頼んで杏奈と学校へ通うようになったのに、今となっては年頃になった彼女を守る存在に逆転していた。

「お待たせ」

おばさんと談笑していると、待っていた本人が現れた。
肩までの漆黒の髪の毛は朝日を浴びて艶やかに輝いていて、白い肌を際立たせている。
すっと通った鼻筋の横にある切れ長の瞳は少し眠そうに伏せられていた。
行ってらっしゃいという声を背中に受けて、朝特有の涼しげな空気の中、通学路を並んで歩いていく。
昨日のテレビ番組の話や、今日の時間割の文句などそんな他愛もない会話をしていた。

「そういえば、今日は、放課後にクラスの奴等何人かでカラオケ行くから、帰りは別だ」

部活に2人とも入ってないから、帰りも互いに何も無ければ普段は一緒に帰っている。用事があれば、こうやって、朝の登校時に伝えるのが昔からの習慣だった。

「…わかった」

君は言葉少なに眉を下げて寂しそうな表情を見せたが誤魔化されない。
一緒に帰れないと告げた時に、一瞬だけ嬉しそうに綻んだ口元は見逃さなかった。

なんだよ、その態度は。
俺と一緒にいるのは嫌って事か?
ムカムカとしたものが腹の底から込み上げてきた。


「六条君おはよ!今日の帰りなんだけど…」

教室へ行くと、一緒に遊びに行く女子の一人に声を掛けられた。

「悪い、行けなくなっちまった。今朝、急に母親の具合が悪くなって帰らないといけなくなったんだ。ごめんな」

「え!?そうなの!?…残念だけど、お母さん早くよくなるといいね」

平然と尤もらしい嘘を吐いて、都合がつかなくなった事を詫びるばかりか同情すら誘う。

「ありがとな。また今度誘ってくれよ」

勿論、ちゃんとフォローも忘れない。こういう気遣いをしてるから、俺の周りには絶えず人が集まる。
それにしても、放課後、いないはずの俺が現れたらアイツがどんな顔をするか楽しみでならなかった。


「しまった。傘なんて持ってきてねぇし…」

帰りのSHRが終わり、窓の外を見ながら愕然とする。
登校時にはあんなに晴れていた空が、帰る頃には重い雲がかかり大粒の雨が降っていた。
杏奈の教室へ行けば、もう帰ってしまったとのこと。
仕方なく、雨粒が降りしきる中、バシャバシャと音を立てて走っていけば、まだ学校の近くに一つだけで咲く見覚えのある赤い傘を見つけた。

「なぁ、杏奈。傘に入れてくれないか?」

雨音に負けない声で背後から呼び止めれば、君は驚き振り返る。
水たまり越しに対峙した俺達。

「英二!?どうして!?」

「行くの止めたんだ」

戸惑っている杏奈を他所に水たまりを飛び越えて、その手に握られていた傘を奪う。
そして、彼女を引き寄せて二人で一つの傘に収まって歩き始めた。

「しかし、参ったなぁ。雨が降るなんて思わなかった」

髪の毛を滴り落ちる雫を手で拭いながら、無事に杏奈と合流できた事に安心して呑気に話しかける。けれども、隣の彼女は俺に目もくれず鞄をごそごそと探っている。

「これしかないけど、とにかく拭かなきゃ!濡れちゃったままだと風邪引くから」

「おぉ!悪い」

「いいから、それより顔貸して」

不思議に思っていると、タオルハンカチを取り出し、正面に回り慌てた様子で俺の顔に手を伸ばした。
足を止めて、少し背伸びして俺の髪の毛の水滴まで拭おうとしている彼女の顔は真剣そのもので、俺が冷えない様に必死だった。

「ありがとな。ハンカチは洗って返す」

「いいよ、別に。あ、おばさん、まだ仕事から帰ってきてないでしょ?家で暖まっていきなよ」

互いの家の真ん中の道でお礼を言って別れようとしたところで、杏奈からの意外な申し出があった。
もう、俺は健康になったし、別に一人で何でも出来る様になっている。
けれども、身体が弱くて家でずっとベッドで横になっていた子供の印象が彼女の中にまだ根強く残っているんだろう。こうやってあの頃みたいに気にかけてくれる杏奈の態度は酷く嬉しいものだった。


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