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どれだけ強く思っていても行動しなければ何も変わらない。
けれども、逆を言えば強く願って行動をすれば変えられると言う事だ。
俺達は大人になった。
狡さを身に付け、確実に欲しいものを手に入れる力を得た。
あの頃みたいに、温室の花の様に守られてのんびりと暮らしていた自分には戻れない。
どうして、もっと早く言わなかったのだろう?
あの頃は時間はあんなにあったのに…
今となってはそんな事すら思う。
現在の自分には手をこまねいて、躊躇してる暇なんてない。
欲しいものが分かってるのに、みすみす逃す馬鹿な真似なんて出来る訳がない。
そして、俺達はしのぶを手に入れた。
「っ…あっ」
胎内に突き立ている自分の雄が跳ねれば、 跨がっている彼女もまた身体を震わせて俺の肩へともたれ掛かってくる。 俺達に馴染んできた蜜壺は嬉しそうに絡み付いていた。
「環…」
涎を垂れ流して、ドロドロに乱れきったしのぶ。白い肌を紅潮させて、快感に浮かされて涙を流す彼女はとても綺麗で愛しさが増す。
「もっ…これ以上は…」
「駄目だよ。まだ足りない…」
無理だと懇願するしのぶを余所に、今度はベッドに押し倒して再び貫く。
足りないのは快感じゃない。
愛しているから、全てを知りたいのに。
君は隠し事をしている。
これだけ責め立てても、喉が擦りきれるほど喘がせても、全てを曝そうとはしない。
いつか必ずそれを引きずり出して、その全てを俺達に。
一緒に過ごす様になってから、その気持ちは強くなるばかりだった。
「俺はね、本当はお前の存在すらも消してしまいたいんだよ?」
小さな声で呟いたはずなのに、妙にはっきりと言葉が響く。
先程までの情欲の交わりの時間が嘘のように静まり返っている寝室。まるで真冬の冷たい空気に吐息が白く象られる様に、言葉が浮き彫りになっていた。
「お前がこの世界に存在してるって痕跡を残したくない。俺だけしか知らない、大切な宝物になって欲しいんだ…」
俺達に挟まれて眠ってしまったしのぶの耳許で言葉を続けた。さすがにこんな事は、起きている時には言えない。
「お前、マジでイカれてんな」
反対側にいる徹の揶揄する様な嗤い声が聞こえた。
「うるさい。徹だって同じだろ?しのぶが俺と喋るのもほんとは嫌な癖に」
身体を起こして奴を睨めば、笑うのを止める。
その表情は瞬く間に凍りつき、色を失った。
「気付いてないとでも思ってた?だとしたら、俺の事なめすぎだよ」
親友がいつもが癪に触るという笑顔でにっこりと微笑む。
「そんな訳ねぇだろ…」
舌打ちをして、吐き捨てる様に言い放つ。
「いい?俺もお前もどうかしてる。でも、俺達は同類で、レベルが一緒だからこれが成り立ってるんだ」
その言葉に、徹は無言のまま真っ直ぐ俺を見据えている。
そう、俺達は言うなれば精神的な双子みたいなもの。
互いが牽制しあってこの危うい関係は成り立ってる。
二人とも"コイツならば仕方ない""コイツであれば許せる"そう思ってるから、どうにかこの歪な調和が成り立ってるんだ。
だから、争ってはならない。
彼女を巡って争うということはそれだけでなく、俺達は社会的にも地位を失う事へと繋がり兼ねない。
俺達は二人だから成功した。
それを忘れてはいけないんだ。
2016.5.13
天野屋 遥か
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