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ずっと欲しかった。
忘れられなかった。

俺は希望だった大手企業に入社した。
仕事も順調、自分の容姿と企業名でモテていたし、かわいい彼女も出来て、端から見れば順風満帆だっただろう。

けれども、思った程に仕事が楽しくなくて、組織で働くことに疑問を感じていた。

「おい、環か?」

「徹!?どうしたんだよ!」

知らない番号からかかってきた電話をとれば、卒業した後、数年間、全く音沙汰なかったかつての親友からの突然の連絡だった。
どうやら、バックパッカーとして海外を旅立していたらしい。

「なぁ、俺、起業しようと思ってんだけど、お前、一緒にやらないか?」

「はぁ!?」

いきなりの突拍子もない誘いに、驚きで大声が出てしまう。

「どうせ、サラリーマンに満足なんて出来てねぇだろ?俺と一緒にやれば、自由にできるぜ?」

なんで、コイツはわかるんだろう?
あの時と一緒だ。

また、きっかけをくれた。

そして、徹が社長で俺が副社長として小さな会社を立ち上げた。
まぁ、流行りのIT企業ってやつで。
始まりは当時俺が一人暮らしをしていたマンションの部屋だった。
アイツがそこに転がり込んできて、会社をスタートさせたんだ。

そんな小さな会社が、今では都心の高級ビルの中にオフィスを構えられる位の規模に成長した。

相変わらず、二人とも女関係は途切れることなく不特定多数と付き合っている。
互いに本気になれる女もなく、俺も徹もお互いを女たちよりも優先していた。
そして、アイツも同じ様に彼女の事を忘れられてないと言う事を知った。

そんな中、風の噂でしのぶの父親の会社が危ないという話を聞いた。

チャンスだと思った。

徹にその話をして、部下にその会社の事を調べさせる。
アイツの親は小さな会社を経営していて、業績が悪化していた。
確かに、このままいけば倒産は免れないだろう。ただ、俺達の会社の規模なら援助は可能だった。

資料を確認した俺と徹は互いに目配せする。

答えはただ一つ。

だから、あの日電話をかけたんだ。

もう何年も連絡なんてしてなかったし、まだ繋がるのかさえ確証が持てなかった番号。
けれども、幸いにもすぐに繋がって、しかも彼女は懐かしそうに話に乗ってきた。

何年ぶりかな筈なのに、耳に馴染む懐かしくて優しい声。

あの頃と変わっていないであろう、電話の向こうの君の姿が容易に想像出来た。


そして、思惑通り契約を結んで俺達は一番欲しかったものを手に入れたんだ。


2016.4.30
天野屋 遥か


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