▼ wish2
「お前さ、 アイツの事どーすんだ?」
卒業が近くなったある日、徹の家で二人でベランダで煙草を吸っていると、不意にそんな事を言われる。
「アイツ?」
「とぼけんな。しのぶの事だよ。俺が気づいてねぇとでも思ってんのか?」
紫煙を吐き出しながら眉間に皺を寄せる徹。
冷たい風が勢いよく俺達の間を吹き抜けていった。
少し、春の兆しが見えてきた温かさも、日が沈んでしまえば冷気に掻き消されてしまう。
「…そりゃ、言わなきゃいけないとは思ってるよ。後悔しないために。そっちこそどうなの?」
どうしていいのかわからない俺はその言葉をそのまま返す。
「俺も言うつもりだ。勿論」
お互いになんとなく抱いている気持ちは分かってて、あえてこの話題は避けてきた。
けれども、卒業を控えた今、牽制し合っている場合なんかじゃない。
初めはその仲の良さに、コイツとしのぶは付き合ってるかと思っていたが、そういう訳ではなかった。
特に女性関係の事を言わない奴だけど、不特定の女の子と関係を持ってたみたいだったのは分かっていたし、ここ最近になって切ったというのも知っていた。
それは、覚悟の現れなのだろう。
紫煙をふぅっとまるで夜空へと繋ぐ糸の様に吐き出し、美しく輝く満月を眺める。
俺達を特別視する事もなく、単なるゼミ生として損得勘定のない友達として接してきたしのぶ。
今までの恋愛とは違う。
いいなと思って気軽に誘えるものでもない。
激しく燃える様な気持ちとも無縁で。
勝算とかそーゆー事じゃなくて、関係を結ぶ、結ばないに関わらず一生そばにいてほしいと思った。
まるで空気や水みたいに、 穏やかで当たり前にあって欲しいもの。
ずっと、俺の傍にいて癒して欲しいと思った。
だから、怖かった。
まさか、こんな事に恐れを抱くなんて思わなかった。
いつもなら、迷わずにアプローチ出来たのに。
俺を見てほしくて、でも何だかいまの関係を壊したくなくて…
ずっと言えなかった気持ちを、卒業の日にやっと伝えた。
「…ごめんなさい。環も徹も大切だけど、友達としてしか見れない」
驚いた。
今まで、告白して断られた事なんてなかったから。
徹も同じなのだろう。
俺達は見事に玉砕したのだ。
ショックは大きかった。
真剣に伝えれば、受け入れてくれると思っていたから。
その場を取り繕いたくて、最後くらいは格好つけたくて、”またね”なんて言ったけど、勿論、連絡なんて出来なかった。
けれども、ずっと忘れられなかったんだ。
2016.4.30
天野屋 遥か
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