言えなかった I love ...

これの続き





好きな子がいる。


「なまえちゃんおっはよー!」
「高尾くん、おはよう」

今日もかわいいなぁ、という言葉は心の中で留める。
バスケ部マネージャーのなまえちゃんに恋をして早数か月。
きっかけはなんだっただろうか。

なまえちゃんとは同じクラスで、マネージャーになる前から友達だった。
入学式の日、新しい制服に袖を通して門をくぐった秀徳高校に胸を躍らせながら教室の自席へつくと、隣の席には既に女の子が座っていた。

それが、なまえちゃん。

部活はまだ迷っているというから、「じゃあバスケ部のマネージャーやんない?」と誘ったのは正直言って下心。

「バスケのこととかよくわからないし…」
そう不安そうに言う彼女に
「だいじょーぶ!俺もいるし!とりあえず見学だけでもいいからさ!」
至極軽く言って、でも内心では断られたらどうしようって心臓バクバクで。
だからなまえちゃんが正式に入部してくれたときは本当に嬉しくて顔のにやけが止まらなかった。


教室でも不自然じゃない程度にたくさん話をした。
同じ部活になってからは、一緒にいる時間が増えた。

緑間に勝つ、認めさせるっつー目標はずっと変わらなかったけれど、それと同時になまえちゃんにいいとこ見せたい、かっこいいって思われたいって気持ちも芽生えるようになって、さらにバスケに打ち込むようになった。



俺の特殊な目はさらに精度が増して、そしたら気が付かなくていいことにまで気付いてしまった。


大好きな彼女は、どうやら宮地先輩に恋をしているようだった。





変化に気が付いたのは、夏の地獄のような合宿が終わった頃だっただろうか。
日々の練習以上にしんどい合宿は、ついていくのが精一杯でなまえちゃんとの仲を深めるなんて淡い考えは速攻で打ち砕かれていた。

そんな合宿後、帰りのバスの中でも爆睡してしまったが、途中のインターチェンジでなまえちゃんの姿を探す。
…と、そこで今まで見たことない光景を目にした。

「宮地さんと、なまえちゃん…?」

この2人が部活のとき以外で話しているのを見るのは初めてではないだろうか。
しかも宮地さんがいつになく柔らかく笑っていて、なまえちゃんも少しおどおどしているけれど楽しそうで、時々顔を赤らめなんかして。

(なんだこれ)

感じたことのない感情に、思わず右手で着ていたジャージの左胸あたりを掴んだ。
なまえちゃんが笑ってる。
宮地さんも笑ってる。
それを見ていることしかできなかった自分が、らしくなくて悔しかった。






それからも俺のやるべきことは変わらなくて、宮地さんへの牽制も込めてなるべくなまえちゃんの近くにいるように意識した。


「なまえちゃん、この肉もう食えるよ」
「あ、ありがとう。けど高尾くんのほうがお腹すいてるんじゃ…」
「いーのいーの!俺もちゃんと食ってるから!」

みんなで焼き肉食いに行ったときは隣の席をキープしてたし、

「なまえちゃん買い出し?手伝うよ」
「1人で大丈夫だよ。せっかく部活早く終わったんだから、高尾くんは今日くらいゆっくり休んで」
「なに言ってんのーか弱い女の子1人に買い出しなんてさせたら男がすたるっつーの!だから荷物持ちさせて?」

備品の買い出しのときは積極的に申し出る。




なまえちゃんの俺に対する態度はいつもと変わらなくて、謙虚で、それでいて俺のことちゃんと受け入れてくれる。
笑って「お疲れ様」って言ってくれる、ただそれだけで疲れなんて吹っ飛ぶんだ。


宮地さんの視線はずっと感じてた。
人の機微には聡い自信があるから、俺となまえちゃんが話しているときに宮地さんが結構な確率でこっちを見てることとか、なまえちゃんが宮地さんと話しているときの表情が俺に向けるものとは違うこととか、全部気が付いていた。




宮地さんが踏み出す前に、俺が伝えるべきだったんだろうか。

どこで間違えたのだろうか。





なにかおかしい、そう感じたのは12月に入ってすぐの頃だった。

体育館に入ってきたなまえちゃんがいつもみたいに「おはようございます」とみんなに挨拶して、俺もいつもみたいに返事をして、ただ宮地さんだけがいつもと違った。

「…おす」
そう短く、気恥ずかしそうに首の後ろあたりに手をやって、でもしっかりなまえちゃんの顔を見て。
なまえちゃんはもうわかりやすいくらいにうろたえていて。
顔が赤いのは寒さのせいじゃないってすぐにわかった。


だけど嘘だと自分に言い聞かせて。
そんなはずないって目を瞑って。



宮地さんに「彼女作んないんすか?」なんて聞くつもりはなかった。

聞かなければ、知らない体でいれば、今まで通りなまえちゃんに接することが許されると思ったからだ。
なんて狡い男だろう。

だから罰が当たったのかな。

その日、2人で帰っただろう宮地さんとなまえちゃんは、次の日2人して少し顔を赤らめながら、「話がある」と部員を集めると俺にとって死刑宣告に等しいよう宣言をしたのだ。



「実は、ちょっと前から付き合ってる」





あぁやっぱり、と思った。

悲しいとか、悔しいとか、そういう感情がぐるぐると頭と心臓のあたりで渦巻いていたけれど、ここ最近なぜか落ち込んだような表情の多かったなまえちゃんが、今日はひどく幸せそうだったから、そんな顔を見たら俺の入る隙なんてはなからなかったんだと悟った。



どうか幸せに。





言えなかった言葉は胸の奥にしまっておくよ。


(2014.01.05.)

書き初めがなんだか悲しいお話であれなんですが、
書き納めの宮地さんの、高尾くん視点です。



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