金の楼閣

※フィガロのしきたり捏造



この砂漠が光る理由を教えてあげよう。



フィガロの昼は暑い。
日差しが砂を灼いて、砂は空に照り返す。
刺すような光が溢れている。

それでもまだ、石造りの城内はしんと涼しくて、俺は薄いレースのカーテン越しに黄金の砂漠を見つめた。
綺麗だった。
暑いのも寒いのも嫌いな自分にとって、砂漠は決して居心地の良い場所ではない。
けれど、機械の匂いがするこの城は好きだった。
フィガロ城が砂の海を泳ぐのを感じるのも、城内を歩く陛下のほっとしたような顔も。
好ましく思わないわけがないのだ。

「セッツァー」

振り返ると、簡素なローブに身を包んだエドガーが落ち着いた笑みを浮かべていた。
仕事は、と問うと、あらかた片付いたとの返答。
それなら今夜にもファルコンに戻れそうだ。
もう少し居てあげてもいいんだけど、本人がそれを良しとしないだろう。
余計な事を言って気を遣わせるのも嫌なので、ふうん、と気の無い返事をして再び窓の外に目を向ける。

「砂漠、白く光ってるように見える」

何気なく言ったつもりが、何か感じ入るものがあったらしくエドガーは後ろから抱きついてきた。

「暑苦しい」
「君は、本当に良い目をしているね」

この砂漠が光る理由を教えてあげよう、とエドガーは言った。
身体を拘束する腕は離してくれなかった。
いいけど。しょうがないからこのままで居てやる。

「フィガロの王族に墓は無いんだ」

「先祖代々、皆、砂漠の下にいる」

フィガロの王族は死後、その躯を焼き、残った骨を粉にして砂漠に撒かれる。
死してなお、この国を守ることが出来るように。

「私も父や祖父と同じように、この身体が朽ちたら此処で眠るのだろうな」

エドガーの声は静かで、そこには不安も恐れも無く、むしろその瞬間を待ち焦がれているようでもあった。
いつ何処で命を落とすかもわからないこのご時世。
彼は砂漠を「墓」にすることを目標にしているのであろう。

「その時は君が、空から手向けの花を寄越してくれ」

凛とした声で言ってエドガーは微笑んでいた。
骨になったアンタを抱きしめろなんて、まったく酷いお人だこと。
なんて、言えるわけも無く。
それがアンタの望みなら俺が叶えてやらないといけない。
アンタが俺に望む最期の願いならば、尚更。

「いいけど、交換条件出していい?」

意外そうな顔をしてエドガーが、なんだい?と尋ねる。
尋ねたからには飲んでもらおう。

「アンタの小指の骨を頂戴」

エドガーは首を傾げた。
俺はその手を強く掴む。

「世界中に撒いてやるから」

こんな砂漠に納まってんじゃねぇよ。
どうせなら世界中守ってやるくらい大きく出てみろよ。
言うと、エドガーは声を上げて笑った。
このやろう、こっちは大真面目だっつの!

「でも、それは良い案かもしれない」

「世界中で君に会える」

砂漠で待つばかりじゃ悪いしね。
最早縛るものが無いのならずっと君と一緒に居たい。
そう言ってエドガーは俺の頬に口付けを落とした。

夢の中で金の楼閣を作り上げる。
何度も、何度も、その日が来るまで。


(2012.08.27)
いつまでも来ない永遠を願っているの。



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