ついったそのさん


どうせヤリたいだけなんでショ。薄ら笑いを浮かべた俺に飛んで来たのは戯れ言ではなくビンタだった。何が起きたのかわからなくて反射で頬を押さえる。顔を上げればそこには般若も泣いて逃げ出しそうな形相のエドガー。きみは。切られた言葉と共に踵を返す彼。伸ばした指先は空気を掠めた。届かない。

届かない指先で自分が言った事の愚かさに気が付いた。息が出来ない身体を引き摺るように走ってその腕を捕まえる。待って。反射で振り返ってしまった彼はいっそ泣き出しそうな顔をしていて、俺は鼓動が止まるかと思った。無意識に零れ落ちたのは言い訳でも弁明でもなくありふれた言葉。ごめんなさい。

自分の守る為に孤独を分け合うたった一人を傷付けた。掴んだ腕は振り解かれることはなく、俺はもう一度謝罪を述べる。ごめんなさい、アンタを信じなくて。エドガーは向き直って俺の頬を撫でた。ごめん、痛かったね。その震える手に触れると喉が詰まって何も言えない。人を信じる痛みを思い出した。



珍しくぐっすり寝た。仕事は一段落。遅寝早起きの日々から解放された。シーツの狭間で微睡んでいると、覚醒しない頭を、ふとコーヒーの薫りがなぞる。僅か軋んだベッドの端から聞こえる「おはよう」は私を起こす気などさらさら無い。くすりと笑った彼はもう一度コーヒーを入れてくれるだろう。


その唇を塞ぐとセッツァーは笑った。「地獄に落ちるよ」麗しの国王陛下がよりによって俺なんかに手を出しちゃあ。冗談に据え置く君は私の目を見ることは無い。だからその身体を壁に縫い付けてもう一度。見開いた紫水晶は正気を問うて真意を探す。「それでもいいさ」天国より地獄より君に辿り着きたい。


私、王様のお嫁さんになるの!と煌めく無邪気な愛を振り切って逃げるエドガーがちょっと哀れだ。フェミニストな奴の事、少なからず心を痛めてるんだろう。が、奴は、そう簡単に結婚できないんだよ、と困ったように笑い、私には好きな人がいるからね、と無邪気返ししていた。哀れなのは俺か、俺なのか。


「ねぇ」で伝わる確率、成功率は50パーセント。他人なのによくぞフィフティも共有できるもんだ、と俺はつくづく感心する。「…ねぇ」と一言。たった2文字と沈黙。そんな物欲しそうな顔しなくても、と陛下は笑ってリボンを解いた。成功率は夜だけ100パーセント。欲望は忠実。


私は自分の性格が少々難有りだと自覚している。好きな子ほど困らせたいなんて、幼い思考にも程があるが、困らせて困らせてそれでも私しか居ないと思わせるのが楽しい。怒った顔もいいけれど、やっぱり泣き顔が好き。墜落しかけている理性を突き落とせ。君の感情をすべてオカズにするのだ。


側にいてくれたらそれで良かった。関係が何だってどうでもよかった。それくらい貪欲な俺は秘めやかに求めた。隣は空けとかなくていいよ。勝手に行くから、我が物顔で。何でも話してよ、何がしたい?付き合ってあげる。だって俺たち「トモダチ」でしょう?まあ俺はそんな風に思ったこと一度もないけど。


セッツァーはあまり笑わない。勿論、面白ければ笑うし軽口だって叩く。にやりと意地の悪い笑みを浮かべる時だってあるし、困ったように眉を下げることもある。でもそれらは巧く作られているのだ。私はそれが駄目だとは思っていない。だから君はずっと隣で笑っていればいい。全部見抜いてあげるから。


愛してるなんて簡単に言っちゃうアイツが嫌いである。でもいきなり言われなくなるのも困る。余計な誤解が生じる。ケンカ?仲直りしなよって、なんで皆さん揃って俺に言うワケ!?そしてニヤニヤして顔を覗いてくるアイツを殴りたい。が、ムカついたので意表を突いてあいしてる!と叫んだ。ああ、地雷。


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