ついったそのに


エドガーが俺の手を取って言った。君を私にくれないか、と。いきなりどうしたのと茶化す間もなく意味がわかった。存在に明確な意味を持たせるということ。それは俺の全てを明け渡すということ。止めた息を吐くように言った。いいよ、それでも。嘘でも冗談でも無く思った。そう、もう覚悟は出来ている。


夢の中で伸ばした指先は空気を掠めて、彼の髪一本にさえ触れられなかった。軽口を言い合って戯れても、無言を貫いて見つめ合っても、どうしても距離が縮まらない。半ば覚醒した意識の隣で押し殺した嗚咽が聞こえる。また泣かせたね、ごめん。それでも君の手を離せない私を責めてくれたらいいのに。


「ちょ、ばか!あんま奥まで入れると痛いってば…っ」やっぱりやらせなきゃ良かった。後悔。身体の内部を明け渡すってそう簡単にしちゃいけない。「んっ、もっと優しくしろよ!」「してるつもり」「嘘だ!このドS!」「私より君が巧いなんて認めないよ」なんでこいつ張り合ってんだよ!※耳かきです


夜の甲板は黒い。居るはずのセッツァーが見えなくなる。闇にさらわれたかのような姿に息を呑んで、慌てて抱きとめると本人はきょとんとした顔でなァに?なんて聞いてくる。落ちたら危ないと思って。そう述べると彼はけたけた笑って、恋に落ちちゃいそうだわ、と茶化す。むしろ私の心がさらわれそうだ。


カーテンの隙間から差し込む光がやけに眩しくて、俺の意識はゆっくり浮上した。せっかくいい夢見てたのに。酔った勢いで陛下を誘う夢。頭が鈍く重く痛い。さすがに飲み過ぎた。床には脱ぎ散らかした自分の衣服、と見覚えのある真っ青なリボン。えっと、もしかしなくても夢じゃなかった。どうしよう…!


秘密ごっこはとても楽しい。誰に知られたって、と思うけど、人差し指を立てて悪戯に笑うコドモみたいな顔が好きなので付き合ってやる。人の目を盗んでウインクを贈るヤツの頭は、きっと恋の媚薬で溶けちゃってる。残念なことに最近は俺にも感染してる。ほら、前向いて。続きはまた後で楽しみましょう。


俺、お前のこと嫌いじゃねぇよ。言ったらエドガーは笑いをこらえ難そうに、本気にしてもいい?と言った。素直、なんて言葉は死んでも当てはまって欲しくないので、勝手にすれば?と言い捨てる。本気になってもいい?と厳かな声色が響いた。向かう所ですよ。これから逃げられない旅路に出るの。


せっかくの休日だというのに朝から江戸川は熱心に英文小説を読んでいる。本日、お前の指はページとマグカップ以外に触れる気はねぇのか。痺れを切らしてその分厚い本を放り投げてやると、困った顔して「君に贈る素敵な愛の言葉を探そうと思ったのに」だと。馬鹿なこと言ってないで、もっと俺に構えよ!


超能力が使えたらいいのに。そしたらカードのマークだって数字だってわかる。イカサマし放題。俺は百戦百勝。アンタの心だって見抜いてさ、この想いの手の内だって見せてやる。その背中を透明な指でなぞって愛を改ざん。俺は恋の百戦錬磨。なんて嘘。ぜんぶ嘘。なあ、どうしたら振り向いてくれる?


「どこか遠くに二人で逃げたい」独り言のような訴えを、聞こえなかったフリをした。それを叶える手段も、想いも、俺は十分過ぎるほど持っていたから。戻れなくなる。否、戻る安寧なんてどこにもない。「俺は逃げずにアンタの隣にいるつもりだけど、それじゃ駄目なの?」いっそ二人で溺れちゃおうよ。


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