※幕吏×土方の描写がありますのでご注意ください。
どうか、すくってください。 その手で、掬ってください 切 月 歌 ベンベン、と響く三味線の音。 隣室から漏れ聞こえてくるそれは、一枚壁を隔てた向こうに人がいるという事実を否が応でも思い出させる。少しだけくぐもったその音をぼうっと聞き流していた土方は、どうした、と訊かれ、慌てて「何でもございません」とだけ答えた。 次いで目の前に置かれた膳に目をやる。 庶民では滅多に口に出来ないような品々が並ぶそれは、江戸に名だたるこの高級料亭にふさわしい、贅を尽くした膳には違いなかった。 しかしその膳の中央に盛りつけられた、とある高級珍味の前で、どうしても箸が止まってしまう。 どうした、と再度問うた幕吏の声色に、明らかな喜色を感じ取って、土方は箸を持ち上げたまま奥歯を噛み締めた。 異星の特産品であるその貝が盛られているのは、土方の膳だけだ。 おぬしの分だけ特別に用意させた、と言われた時から決していい予感はしていなかったのだが、運ばれてきた器に載っているそれを見とめた瞬間、土方は血の気の引く思いをした。 地球人であれば誰しも口を付けるのを躊躇うような、グロテスクな外観の珍味をわざわざ用意させたのは、それを土方が食すところを見て一興としようとするほか意図がない。 そのことを痛い程分かっているだけに、いっそ相手が興醒めしてしまう位何食わぬ顔で食べられればよかったのだけれど、その覚悟を即座にできないほどに貝の風貌はおよそ口にするものとは思えない形状であった。 「せっかく用意させたのだから、残さず食べなさい」 そう命じて、笑みを浮かべる幕吏に応えることなく、土方は箸の先でおそるおそる貝をつまむ。 大きな殻の部分を左手で支えながら、茹でられて赤みを帯びたそれを口元に運んだ。 ぬる、と少し滑りを帯びたその先端が舌に触れた瞬間、これまた「それ」に良く似通った苦みと塩辛さが口内に広がって、土方は思わずえづいた。 味も、感触も、匂いも、全てが記憶の中のそれをいやおうなしに連想させて、とてもではないが歯を立てることすらできそうにない。 再度口に運ぶことを躊躇う土方を見て、正面に座る幕吏が楽しそうに声をあげた。 「おや、せっかくわざわざ取寄せた品だとのに食べられないと言うのかね」 「い、いえ…」 「ならどうして箸が止まる」 「そ、れは……」 言葉に滲む楽しげな色が、ぎりぎりの淵で堪えた感情を逆撫でする。 今にもあふれそうな拒否のサインをこらえて、土方は再び手にしたそれを口に含めようと試みた。 ところが、口を開いたまますこしだけ逡巡する土方を見かねてか、幕吏がおもむろに口を挟んだ。 「どうやら上の口では無理なようだねぇ」 「…え?」 「ならば下で食べてもらうほかあるまい」 別の幕吏が口にしたその言葉が合図だったかのように、幕吏たちが一斉に立ち上がった。 いまだ膳の前に座す土方を取り囲むようにあつまり、両腕に手をかける。 「ちょっ、離し……ッ」 「騒いでもいいのかね。隣の三味線の音が聞こえないのか」 すぐ近くに他人のいることをあらためて示唆され、土方の手が止まった。それを見とめ、幕吏が笑みを濃くする。 端からこうなる算段だったのだろう。 確信犯としか思えない表情に、土方は地を睨んだまま唇を噛みしめることしかできなかった。 こうして宴に呼び出され、しまいには酒に酔った幕吏たちに戯れに身体を弄ばれることは珍しいことではなかった。 今日とて、それをまったく予想していなかったわけではない。 しかし、こうして「それ」自体があからさまに目的とされたことはなかった。 それゆえ、急な展開に戸惑う一方で、何か裏に隠された意図があるのではという疑念が拭えない。 それでも、今ここでなす術など無い。 結局そのまま抵抗らしい抵抗もできずに、畳に上半身を這わされ、突き出す形になった腰に幕吏の手がかかる。前に回された手が、器用にベルトを外して、下着ごと履いていたものを膝まで下げられた。 「ひ…っ」 何かを掬いとった幕吏の指が、窄みに当てられそのまま無遠慮に潜り込んでくる。 漏れそうになる声を必死に抑えて、土方は額をじりと井草にすりつけた。 ぬめりを帯びた指が、ついで二本目も差し込まれ、広げる様に動く。 体内に外気が入り込み、くぷりと卑猥な音をたてるのを、土方は耳を塞ぎたい思いで耐えていた。 「そろそろいいかね…」 声とともに差し込まれていた指がぬるりと抜かれ、間をおかずに別のモノが近づけられる気配がする。 「さて、ちゃんと味わいなさい」 「い、ぁ……っ」 ぴたり、と入り口に当てられ、土方が身構えると同時に、身の引き締まった貝が後孔に侵入してきた。 「ひ…ぅ、」 弾力も形状も限りなく男性器に近いものの、すでに調理されたそれは自ら熱を発することはなく冷たい。そんなものを一気に奥まで押し込められて、土方は圧迫感に息を飲んだ。 「どうだ、美味いか」 「…ぐ、ふっ…」 「こちらのほうはだいぶ美味しそうに咥えているではないか」 貝をくわえ込んでぎちぎちに拡がった穴の縁を、幕吏のかさついた親指が撫でた。 別の幕吏が、手に持った貝をさらに押し込むようにぐりぐりと動かす。 性器よりも幾分自由に動くそれに内壁をなすがままに犯され、土方は時折あげそうになる声を堪えて飲み込んだ。 いつのまにか履いていた物はすべてはぎ取られ、仰向けに畳に縫い付けられた土方の身体に左右から手が伸びる。 後孔は未だ柔らかい貝に、唇にも別の貝が押し付けられた。 舐めなさい、と言われるがまま、貝なのか性器なのかわからないそれを口に含む。 濃い潮の香りがあたりに充満して、つんと鼻腔をついた。 ふいに、後孔を犯していた幕吏の手が止まった。ようやく解放される、と思ったのも束の間、後孔には未だ異物が押し込められている感覚。 ふと顔をあげると、幕吏が何かを手にしている。それが何なのか理解した瞬間、土方は考えうる最悪な予感に血の気の引く思いをした。 「ちと激しく動かしすぎたかね…」 「…っ」 「貝が折れてしまったわ」 手に持った殻だけの貝を見つめる幕吏に、困った様子など欠片もない。 ちぎれた貝の先端を飲み込んだままの後孔が、ひくりと痙攣した。 後 編 |