ナナメ上を向いて行こう! | ナノ



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小鳥遊side

ファミレス等、女性スタッフの割合の多い職場では、だいたい女性の方が立場が強い。


うちの店も例外ではないが……


「あれ、相馬さんと門田さんヒマそうですね」

「んー?私は今から休憩だけど…」

「いやぁ、女の子達と少し世間話したらみんな仕事代わってくれて……


やることなくなっちゃって」


(また脅したな……)


本当の最強は相馬さんかもしれない。


「うちの男性陣ってかなり女性陣に押され気味ですけど、相馬さんは強いですね」

「そうかなぁ?」


本当に分かっていない風に答える相馬さん。よくもまあ、ぬけぬけと言えたもんだ。


「伊波さんとかに対しても殴られずにやりすごせそう。

ーあ、今日彼女来ますからね」


あれ、相馬さんの顔色が心なしか青く…


「帰る!!!!」


ずざざざっと、今までの飄々とした態度が嘘のように後ずさる相馬さん。


「伊波さんはちょっと…」

「あれ?伊波さん苦手なんですか」

「そういえば、シフトかぶってるとこあまり見たことかも」


門田さんでも見たことがないとなると、シフトがかぶること自体珍しい事なのだろう。


「男で彼女とうまくいってるのは君と佐藤くんくらいだよ!!」

「相馬さんにも苦手なものがあるんだ……

ーそうか……」

「えっ、なんでほっとしてるの?」

「相馬もちゃんと人間だったって安心してんでしょ」

「…京香ちゃんて、ほんと俺にあたり強いよね」


相馬さんにも弱点があるということだが、一つ疑問に思う。


「いつものように口でねじふせればいいのでは?」

「いや、小鳥遊君もそれはどうなの……」

「人聞き悪いなぁ、もうそれどころじゃないよ。昔から話す間もなく……」


その時のことを思い出しているのかガクガクと震え始める相馬さん。相当なトラウマなようだ。


「喋る前に口封じしてるのか……」


さすがだな伊波さん。


「だいたい話すにしても、俺……
相手の事いろいろと知ってからじゃないと話さないんだけど」


要するに脅すネタをつかむまでか……。ああ、隣の門田さんも嫌なもの見る目になってきたし……


「でも伊波さんて、逃げるか殴るかで全然知るスキを与えないっていうか……

未確認生物みたいで」

「ああ……たしかに野生的ですよね」

「そう?けっこう普通じゃない?ちょっとやんちゃなだけでさ」

「いや、あれをやんちゃと言える京香ちゃんもすごいよね」


表情をみると本気で思ってるんだろうけど、たまに門田さんの価値観が理解できない。

「あぁ、嫌だなぁ」

「まあでも、キッチンにこもっていれば大丈夫ですよ。音尾さんは前運悪く遭遇しましたけ

ど…ぁ、」

「あ、おはよ。まひるー」


相馬さんの後ろにいつの間に来たのか伊波さんが!門田さんなんで今の流れでのんきに挨拶を!?


「きゃーーーっ!!」


バキッと、いっそ清々しい音をたてて伊波さんは相馬さんを殴った。


「相馬さん!!!!」


まあ。そうなりますよね……

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