ナナメ上を向いて行こう! | ナノ



5品目


「佐藤くん、相馬くん、京ちゃん。いつもお世話になってます」

そう言って笑顔でチョコを3人に渡しているのは八千代。本日は2月14日。聖バレンタインデーである。

「どうも。毎年マメだな」

「ありがとう」

「ありがとう八千代ちゃん。はい、私から」

「京ちゃんも毎年ありがとう。京ちゃんの手づくりチョコ。毎年杏子さんと楽しみにしてるの」


お互いに綺麗にラッピングされたチョコレートを渡しながら会話をする2人に、佐藤と相馬はこうして見ると女子っぽいのにな……と思ったがそれを口に出すほど馬鹿ではない。


「ほんと?それは嬉しいな。あ、これ店長の分。渡してくれる?」

「分かったわ。ありがとう」

そういって、そのまま八千代は店長のもとへ走って行った。


「佐藤くん。これ、俺の分もあげる」

「なんでだよ、いらん」

八千代を見送った後、相馬がせっかく貰ったチョコを佐藤に押し付け始めた。


「あ、私はあげないよ。八千代ちゃんがせっかくくれたんだし」

「だからいらねえって言ってんだろ」

「義理とはいえ、俺ももらえないよ。お返しのときは俺もお金出すからさ」


しつこい相馬に仕方なく受け取った佐藤。その手にはもちろん2つのチョコがあるわけで。


「あ、義理が2倍に増えた…


あ、ヒドッ、フライパンはダメだよ佐藤くん!助けて京香ちゃん!」

「自業自得でしょ。手伝おうか?佐藤」

「うわ、ひどい!俺の味方はここにはいないの!?…ていうか、京香ちゃんは俺らにはくれないんだね」


その言葉に佐藤も手を止め、なんとか逃れた相馬。


「そういや、お前、毎年女子にはやってるよな。しかも手作り」


2人の疑問に門田は、え、知らないの?と若干のドヤ顔で答える。


「アメリカの風習では、男の人が女の人にあげるものなんだよ」

「わー、それさっき店長も言ってたー」

「いや、なんでお前男側なんだよ。」


そんなの、と門田はキョトン顔になりつつ言葉を続ける。


「男と女の笑顔だったら女の子を選ぶに決まってんじゃん」


((そうだ。こいつ/この子、この店一の男前だった…))


当たり前だろうと言わんばかりの表情に、男2人は複雑な心境になったのだった。


****


「佐藤くん。うかうかしてると京香ちゃんに轟さん取られちゃうんじゃない?」

「………」

「あれ、殴らないってことは否定できないってことでいいの?佐藤くん!?」

「……うるせぇ」

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