世間は意外と狭かった
「すみません。待ちましたか」

「ん?いや全然。私も本屋寄ったしちょうど良かったよ」


山口姉烏野高校突撃事件があった週の日曜日。烏野高校の最寄り駅前に月島と愛は待ち合わせていた。

あの時言っていたケーキ屋に行く約束。バレー部は中々休みがないため、午前のみの練習の今日行くことにしたのだ。部活が終わった時点では十分間に合う予定だったのだが、そういう勘だけは鋭い西谷と田中の2人に、「今日はやけに急いでるな」と捕まり、山口が「これからケーキ食べにいくんだよね、ツッキー!」と素直に言ってしまったことで余計に絡まれる結果となってしまった。

結局遅れるし。と思わず溜息を吐く月島は、まさか後を付いてきてはいないよな…と周りを見渡す。流石にそれは無いだろうと思いたいが、探偵気取りで着いてくる姿も安易に予想できてしまうあたりが恐ろしい。今のところそれらしき気配はない。とりあえず安心したところで、改めて彼女を見る、


「…制服なんですね」


部活帰りの月島ももちろん制服だが、愛はたしか帰宅部だったはずだ。


「ああ、私も午前中は学校に用事があってさ。それより!早く行こう?席埋まっちゃう!」


実は私服姿を期待していたとは、もちろん言えず、そうなんですか。と無難に返した月島は、せかす愛に従い店へ向かった。


****


目的の店へ着くと、人気店なだけあって店内は賑わっていた。だが、持ち帰りの人も多くいたため、2人は窓際の席を確保できた。


「僕が買ってくるので愛さんは荷物見ててください。ケーキ何にします?」


席に荷物を置き、財布だけ取り出すと、月島は同じく財布を取り出そうとしている愛に言った。


「え、本当?あ、じゃあ。前言ってた新作のチーズケーキとイチゴのタルト、それからプリン。飲み物は、」

「アイスティーですよね。ていうか、そんなに頼んで良いんですか?」


愛は、元から決めていたのか迷うことなくケーキの名前を挙げていく。ふと、真剣な表情で尋ねる月島。愛はなんで?と首を傾げる。


「カロリー分かってます?確実に太りますよ。最近体重増えたの気にしてたんじゃないんですか?」

「な、なんでそのこと知ってるの!?何?ツッキーくんストーカー?」


明らかにギクリという表情をした後、若干引いている愛に、失礼な。と続ける。


「まさか。山口が言ってたので」

「さすが忠くん!私がぼそっと言ったことも覚えてくれてるなんて、嬉しい!」

(相変わらず歪みないな)


その変わり身の速さも去ることながら、僕が愛さんのアイスティー好きを覚えていたことには触れないくせに….。と、やはり、立ちふさがる弟の壁に内心落ち込む月島だが、愛はもちろん気づくはずもない。


「あ、でも今日はたくさん食べて大丈夫だよ!」

「なんでですか?」


やけに自信ありげなその言葉に疑問を持つ。


「今日のためにいっぱい運動してきた!」

「…クク、食べる前にまず痩せるって、プッ、大変ですネ。」

「え!?何?馬鹿にしてる?」


どーん!という効果音が付きそうな勢いで告げられたのは、思いのほか子供らしい原理で、思わず笑いを堪えきれない月島。機嫌を損ねてムスッとした態度がまたそれを助長させることに本人は気づいていないのだろうか。


「いえ、可愛らしいなと思っただけですよ。…子供らしくて」

「やっぱり馬鹿にしてるじゃない!」


素直に可愛いだけで止めとけば良いものを、どうして余計な一言をつけてしてしまうのか、それは山口も頭を抱えている問題だ。

それじゃあ、買ってきます。と月島が席を外したあと、愛は暇つぶしに先程買った本を開いて見た。タイトルは【初心者のためのルールブックーバレーボール編ー】。それをパラパラとページをめくってみるが、意外と知らない専門用語が多く、これは家でじっくり見るべきだなと再び袋に戻す。

そのとき、コンコンとガラスを叩く音が。何かと愛が窓の方をむくとそこには、


「ヤッホー、愛ちゃん!」


と、おそらくそう言って手を振っている及川と無理に連れて来られた感満載の岩泉だった。この前烏野のことを何とか誤魔化したのに…。このままだとまずいことになるのは明確である。とりあえず適当に手を振ったら帰るだろうと愛が手を挙げたのだが、


「すみません、お待たせしました。って、青城の?」


タイミング悪く帰ってきてしまった月島に愛は、マジかよ。と思わず顔が引きつらせ、窓の外を見るとそこには岩泉が窓越しに同じ表情をつくっており、及川はというと、



すでに店の中へ入ろうとしていた。



((なんで烏野にきてるの?2人とも家別方向じゃん!))
((うるせえ、こっちにもいろいろあったんだよ!))

[ prev next ]
Back to top

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -