こんな日常
「愛ちゃんおっはよー」


青葉城西高校3年5組の教室にて、チャイムギリギリに入って来るなり愛に話しかけてきたのは男子ボール部主将の及川徹。女子に人気の彼は相変わらずのキラキラスマイルを振りまいており、その横には副主将の岩泉一もいる。


「おはよ、徹ちゃん。岩泉も朝練お疲れ」

「おー。お前なんか今日機嫌いいな」

「まあね。昨日弟の高校に突撃訪問したら良い人ばかりでさー。友達増えちゃった!」


ニコッというよりは、ヘラッと能天気な笑顔で上機嫌に語る愛に対し、へー。と興味なさげに返事しつつ、自分の席、愛のひとつ前の席に座り重たそうなエナメルを肩から下ろす岩泉。


「おいこら。興味ないなら聞くなや」

「いや、別に人の友達事情とか興味ねえし」

「うわ、ひどー。だからモテないんだよ。徹ちゃんみたいに」


ほら、と彼女が示す先には先程彼女に挨拶した後岩泉と同じく自分の席に向かった及川の姿。その周りには、すでにチャイムが鳴り担任がいつ来てもおかしくないというのに、及川と話すために群がる女子数名。


「…いや、別にああなりたくねえし」

「またまたぁ、本当は羨ましいんでしょ?」


ニヤニヤと笑う彼女は、もちろん心底嫌そうに語るそれが本音だということは分かっている。愛にとって3年間同じクラスの岩泉をからかうのはある意味日課であり、特にこのネタは既に耳タコなほど行われている。


「で?お前の弟の高校てどこだったっけ、確かバレー部だったよな」

「あれ、興味ないんじゃ…」

「うっせーよ」


そして、岩泉が話を変えるのもいつもの光景だ。及川をうまく制御する岩泉でも、彼女に口で勝てたことがない。ちなみに、このやりとりは同じく3年間同じクラスで現在愛の隣の席に座る高橋くん(趣味:読書)が、お疲れの意を込めて静かに岩泉の席にガムを1枚置くところまでがワンセットとなっている。彼曰く、「なんか…、娘に強く言えないお父さんって感じで可哀想になるんだよね。」らしい。


「で、どこなんだよ」

「あ、そこ引っ張るんだ。言ってなかったっけ?烏野だよー。この前練習試合したって言ってたよね」

「は!?おまっ、烏野かよ」


そんなに驚く?と言う愛だが、最近行われた練習試合でしばらく治まっていた及川の影山に対するいざこざが復活したばかり。これを及川が聞いたら碌なことにならないだろうと考え、黙っているように伝えようとする岩泉だったが、タイミング悪く担任が来てしまい、そのままホームルームが始まった。


****


「で、さっきのことなんだけどよ、及川にはあんま烏野のこと話すなよ。機嫌わるくなるか変にテンション上がるかのどっちかだから」

「ん?うん、分かった」

「2人とも何の話ー?」

「げ、及川」


ホームルーム終了後、さっそく伝えた岩泉が、よく分からないという感じでもとりあえず頷いた彼女にホッとしたのも束の間、当の本人が来てしまったことに思わず顔をしかめた。


「ひどいな〜岩ちゃん。で、何の話してたの?"烏野"って聞こえたんだけど」

(地獄耳かよこいつ…!)


ニコッと笑顔を崩さず尋ねる及川に冷や汗を流す岩泉と対照的な2人。岩泉は視線でなんとかしろ、と愛に訴えるが


「そうそう、烏野!よく聞こえたね、徹ちゃん」

「ばっ、お前…」


さっきのこと忘れたのか!と言わんばかりの岩泉に気づかない愛。及川の笑顔も心なしか引きつっているような気がする……


「へ、へー。烏野がどうかしたの?」

「烏野高校の最寄り駅の近くに出来た新しいケーキ屋に今度行くんだーって話してたの」


はじめは納得いっていないようだったが、ね、岩泉?と話を振られた岩泉がお、おう。と肯定したことで、一応及川は信じたようだった。


「なーんだ、そうだったんだ。ごめんごめん。最近烏野って言葉に神経質になっちゃっててさ。変に勘ぐっちゃった」


安定のスマイルに及川が戻ると、岩泉が考えすぎなんだよ、バカが。と背中をバシンと叩く。それを見ていた愛は、


「そうそう、能天気っぽく生きてるのが徹ちゃんでしょ?」

「ぽくって何さ。完全な能天気ではないってこと?」

「え、だって、徹ちゃん結構腹黒でしょ?男バレの練習覗いたときそんな感じした。私、こういう勘当たるんだー」


ファンの女の子とか好きな子にはバレないようにしなよ?とビシッと及川を指差し忠告する。及川がなんの返事も出来ないまま固まっていると、「山口ー、委員会のことでちょっといい?」と廊下から呼ばれ、愛は他のクラスの友人に呼ばれ席を立った。一方、残された方はというと、


「岩ちゃん……」

「……なんだよ」

「既に好きな子にバレてた場合はどうすればいいと思う?」

「知るか」


顔を手で覆いうつむく及川と、それを呆れた顔で見つめる岩泉がいたのだった。


「岩ちゃん、お父さんて言われてるじゃん!娘の気持ちくらいわかるでしょ!?」

「いや、だから知らねーってしつけえな!高橋も!今ガムいらねーから!」

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