※6話、仁王視点
「あー。やっぱり俺何かしたっけなあ」
「さっきから何じゃ。いい加減鬱陶しいなり」
無事テストが終わってしばらく経った頃。丸井は机に突っ伏して寝ていた俺の席の前にわざわざ来てため息を繰り返していた。それでも寝たふりを通していたら、あからさまなかまってコール。ここまで来たら何かあるのだろうと顔を上げると、丸井は思ったよりも深刻そうな表情をしていた。
「いや、みょうじのことなんだけどよ」
みょうじと言われ思い出すのは丁度一週間前。幸村が普段はファミレスでする勉強会を図書室でしようと言い出したことが始まりじゃった。本人は気分と言っとった。本当は丸井と柳が口に出す"図書委員のみょうじなまえ"を見てみたかっただけだと思うが、実際図書室に行ってみればみょうじを眺められる位置に丸井を座らせた以外は普段と変わらんかったけ、幸村はよう分からん。
ここで一つ予想外だったんはそのみょうじがいつもよりずっと早く図書室を出たこと。丸井や柳の話では毎日最後まで残っていると聞いていた俺らは自分らが原因だろうかと慌てた。特に丸井が「目があった瞬間凄い勢いでドア閉められたんだけど」と不安がっていた。
そこで幸村が「追いかけて確認すればいいよ」と、丸井の意見を聞かぬまま荷物をまとめ追い出した。
その後どうなったかは知らんが、どうやらそのときになんかあったらしい。
「やっぱ俺らが原因だったんか?」
「いや、そこは多分大丈夫だと思う。その話までは普通だったし。ただ、そのあと気づいたらみょうじが何かぎこちなかったんだよな……」
「…よう分からんが、どうせ丸井が何かまずい事でも言ったんじゃろ」
そのみょうじさんとやらのことはよく知らんが、普通に考えればそうだろう。
「ほれ、何言ったか教えんしゃい」
「いや、それが覚えてないんだよぃ…」
「は?」
コイツナニイッテンノ?的な冷たい視線をしていたんじゃろうな。丸井が俺を見て慌て出した。
「いや、だってよ。考えてみろよお前!ずっと見てるだけだった俺があんな急展開に耐えられるわけねえだろぃ!?」
「なんじゃ、ヘタレの自覚はあったんか」
「うるせえよ、だってみょうじ、派手な奴苦手そうだし。ガツガツいったら絶対引かれる…」
顔を手で覆い呟く丸井。お前は女子か。
「最近、図書室にも居ないし。まさか、俺がテニスコートから見てたのに気づかれたのかな」
「まあ、そうだとしたら気味悪がるのが普通じゃな」
「終わった……」
そう言って項垂れる丸井にかすかな罪悪感が芽生えた。
「冗談じゃ、冗談」
詐欺師の勘的に実際の原因は違う気がするが、弱った丸井を見てるとついついからかいたくなってしもうた。流石にからかいすぎたかのう。
ーと、ほんの少し反省したのが3時間前くらいか。こんな偶然もあるんじゃな。
放課後になり、何時ものように部活へ。しばらくして試合形式の練習になったけ、順番待っとる間にどっかで一眠りしとこうかとやって来た屋上で、なんと噂のみょうじさんを見つけた。
この前といい今日といい、丸井や柳から聞いとったとおり相当な本好きらしい。
最近図書室に居ないのは、まさかずっと屋上のベンチで読んどったんじゃろうか。
相手が何も言ってこないのをいいことに、暫く観察してみる。顔立ちは中の上くらいか?可愛い系かキレイ系かと言われれば可愛い系寄りじゃな。丸井の好きそうなタイプなり。俺のタイプではないがな。
まあでも、丸井があそこまでこの子にこだわる理由は分からんな。丸井の話をまとめれば、"普段は無表情の真面目ちゃんな子が笑ったら可愛かった"っちゅういわゆるギャップ萌えという奴か?
それとも、なんかこう……。特別な何かが、
「あの、何か用ですか?」
「プリッ」
おっと、どうやらじっと見過ぎたようじゃ。若干迷惑そうにしとるが、いい機会なり。ここで関わっとった方が今後何かと手を出せるし面白そうじゃ。
俺の試合が回ってくるまであとちょっと。丸井への罪滅ぼしも兼ねて、すこーし探らせてもらおうかの。
まずは、テニス部ということで無駄に騒がないという点では好印象じゃな。果たしてこの子は丸井と上手く付き合える人間なのか。
お前さんはどんな人間なんかなあ?みょうじ"ちゃん"
詐欺師の気まぐれ面白い子だったら、丸井を応援でもしてやるか。
しょうもない子だったら……まあ、そん時はそん時ぜよ。
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