紺碧
今夜は***ちゃんが仲間になって初めての不寝番の日だ。

「大丈夫だよ、任せて」と何でもないように言われた。「初めてだし今回は一緒にいようか」と訊いてみたけれど「早く一人前の仲間になりたいからいい。ありがとう」と断られてしまった。
心配であることと同時に夜通しお喋りをするチャンスだと思って申し出たので残念だが、***ちゃんらしい生真面目さだなと思うと微笑ましい。

そうは言ってもやはり気にならない筈はなかった。
夜食を持っていってあげようと思い、何を作ろうかあれこれ考えているとギターケースを背負って展望台への梯子を登っていく***ちゃんの姿が見えた。

思えば初めて出会ったときには確かにギターケースを背負っていたが、仲間になってからそれを取り出したのを見たことがない。
ナミさんやロビンちゃんもそんな話は全くしていないので、おそらく女部屋でも弾いたことがないのだろう。

好奇心ではやる気持ちを抑えながら、夜食のサンドイッチとコーヒーの準備に取りかかった。
食べやすい大きさに切り、ひとつひとつピックを刺していく。
コーヒーカップは二つ用意した。
バスケットに詰めてキッチンを飛び出す。

梯子を登っている途中からギターの音色と歌声が聴こえてきた。
高い天井で美しく反響する音。
展望台の床へ向けられているのに、深い海に沈み込んでいるような***ちゃんの眼差し。
***ちゃんが創った曲なのだろうか。***ちゃんの島で歌われていた曲なのだろうか。
おれはこの子のことを何も知らない。

しばらくドアのところで立ち尽くしてしまったが、コーヒーが冷めてしまうということに気付き、歌い終わったタイミングで「***ちゃん」と声を掛けた。
驚いたような顔をこちらに向け、頬が少し赤らむ。
「大丈夫だって言ったのに」
少しだけぶっきらぼうなその口調に照れが透けて見えた。

構わず隣に腰を下ろし、「付き添いじゃなくて観客ならいいかな」と問いかける。
小さく頷く***ちゃんを見て、おれも曲を創ることが出来ればなあ、と少しだけ口惜しくなった。


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bkm
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