片想い厨と相互愛至上主義[1/2]
出会ったのは2日前。
昼食のラッシュに巻き込まれ、相席を頼んだ時のこと。
彼は恋人と別れたばかりの俺を付け狙ったかのような、けれどそれにしては随分とズレた要求を提示して食事を共にすることに許可をくれた。

『片思いさせてくれるなら』

きっと、互いに面食らった表情をしていたのだろう。
普通ならあれは苦笑したり濁したり引いたり、とにかく断る場面だと断言できる。
第一あの人も男だし。そういうことに偏見はないけど、初対面の男性から言われて嬉しい言葉じゃない。
だけど俺は頷いた。言われた俺よりも言った本人の方が取り乱す様が面白くて、つい。
彼は俺の声に反応してあの言葉を口にしていたが、正しくそれが俺に向けられているようには見えなかった。
この事実こそが彼の慌てていた大まかな理由だったのだろう。

千良 氷。
電話帳に追加されたばかりのその名が、気紛れに、暇を消化しようとスマホを弄る俺の目に止まって小さく笑った。
連絡先は交換したものの彼、千良さんからの通知は未だ履歴に溜まらない。
ただの戯言だったのかな?なんて思ったりする時期にはまだ早いだろうかと思考を働かせていれば、講義の終わる時間となっていることに気が付いた。
ぞろぞろと、俺が凭れていた通路の壁より正面に位置する教室から同級生達が退室してゆく。
スマホの側面の凸部を押し画面が暗転したのを確認すれば、小さな群集に視線をさ迷わせた。

「おーい、杜島!」

談笑が重なりざわめく生徒の中から俺を呼ぶ声がする。
音源へ目を向けると、当たり前ながらそこには目的の人物の姿があった。
重心を壁から地面へ移行させて歩を踏み出す。
持ったままだったスマホはジーンズのポケットへ。
声に応えるよう、軽く手を上げた。

「お疲れさん、加藤」

「さんきゅ」

労いの言葉を掛けてやれば友は軽快に笑う。
だが駆け寄ってきた加藤は突然俺の目の前で手を合わせた。
パン、と乾いた音が鳴る。
一瞬反射的に目を閉じて、開いた視界で視認した加藤の頭は下げられていた。

「悪い!急用入った!」

「20分もここで待ってた友人に言う台詞じゃない気がする」

「うぐ…」

大きな荷を運ばなくちゃいけないから車を出してくれ、なんて目の前の男が頼んで来たのは昨晩。
今日は俺も午前だけだけれど講義があるから大学に来なくてはいけなかったし簡単に了承はしたけど…待たされて突然無理になったと告げられては少し癪だ。
だがひたすら謝罪を繰り返す様を見る辺り、本人も予期していなかった事態だったのだろう。
俺は鼻から深く息を吐き、頭を掻く。

「仕方ないなぁ…」

「杜島…!ありがとう、恩に着る!それじゃあまたな!」

俺が許した様子を見せれば加藤は今までの態度を一転、またヘラヘラといつものように笑って何処かへと走り去っていく。
講義が終わった教室の前は、俺一人だけが残された。
数刻前が嘘のように静けさに包まれる。

今日の予定は、大いに空白が出来てしまった。
加藤の頼み事を済ませた後は、ジャンクフードだろうけれどお礼にと飯を奢ってもらう予定だったの だ。
その後のことは決まっていなかったけれど普段の付き合いを考えれば、俺かあいつの家で誰か他の友達を招いて飲み会に発展していただろうと予想出来る。
そして酔い潰れて気が付けば翌朝。
つまりはこの瞬間、午後1時から明日の朝まで『暇』が俺の予定を占領したのだ。どうしたものか。

ふと、こんなところに居ても埒があかないという事実に気が付いた。
とりあえず車を停めた駐車場へ戻ろう、それから暇そうな友達に手当たり次第当たってみよう。
加藤が走り去って行った方向とは反対側、外へ繋がる通路を歩き出す。
どこか歩みは気怠く重い。

ポケットにしまったスマホを取り出し起動させる。
画面に映ったのは閉じ忘れていた電話帳。
名前は、





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