片想い厨と相互愛至上主義[2/2]
リリリリリ、リリリリリ。
1コール、2コール。
初期設定の鈴の音が部屋に響く。電話だ。
重い体を引き摺ってベッドから這い出る俺は、もう昼だというのに寝起きのまま。低いテーブルに腕を伸ばし、ケータイを取った。
未だ閉められたカーテンは外からの光をほとんど遮断していて、部屋は薄暗い。この暗さに慣れた俺の目には、ディスプレイが放つ明かりは痛かった。相手の名も確認せず、否、光に怯み確認も出来ずに通話ボタンを押す。
もしもし!軽快な声が鼓膜を揺らした。
頭を占めた思考はまず1つ。誰だ?
耳元から端末を離し、発信者の名前を確認する。
杜島 友兎
ふと会話が蘇る。

俺に片思いしてくれるんでしょ?なら、連絡先くらいくださいよ。便利ですから。

2日前、失態を誤魔化す間もなくほぼ無理やり交換させられた覆しようもない事実。それが写された画面を見てため息をついた。
通話相手から返答がないことを不審に思ったのか、内蔵スピーカーからは何度も「もしもし」や俺の名を呼ぶ声が微かに聞こえる。頭痛を感じた気がした。

「…なんだ?」

『わ、びっくりした。繋がったのに無言ってどういう了見ですかー』

酷い、と訴えられる。酷いと言いたいのは俺も同じだ。折角丸々1日休みだからと寛いでいたのに。人と話すなんて重労働は嫌いだ。今すぐにでも通話を終えてしまいたい。
衝動を噛み殺して、口を開く。

「何の用だ。特に用がないなら切る」

あまり噛み殺せていないか。自嘲気味に思考を働かせながら立ち上がる。起きてしまったのはもう仕方がないと、布団に戻る選択肢は諦めてカーテンを開いた。日光の明るさに目を瞑る。
電話の向こうからは何が楽しいのか、笑い声が聞こえた。

『予定がなくなって暇になっちゃったんです…だから、遊びません?』

それなりに簡潔な誘い文句に即答した。断る、と。
軽率そうなこの男の狙いはきっと俺をからかうことだ。確証はないが確信できる。2日前のあれを引き摺って遊んでいるだけにすぎない。
どことなく頭痛を感じながらベッドに腰掛けた。
ギシリ、スプリング。

『えぇ、いいじゃないですか。声もガラガラだしどうせ今起きた感じでしょ?カーテンの音もしたし。こんな昼に起きるような大学生は大抵が暇だと相場が決まってますよ。俺が千良さんの家行きますから、ね?』

電話越しに2,3言葉を交わしただけだと言うのに、ピタリと現状を当てられてしまった。
驚愕して声を呑む俺に、笑い声がかけられる。

『しつこいですよ、俺。特に、今暇になったばかりだし。諦めて家の場所教えましょ?手土産も何か買って行きますしお得ですよ!』

理不尽な要求に深くため息を吐いた。
この先何度も電話なりメールなりで遊びの勧告をされるのだろう。もうこれは2日前連絡先を渡してしまった時点で俺の負けだ。何の勝負かは分からないけれど。

「…橘駅前のアパート」

『たちばな…ああ、あそこ。結構近いんですね。それじゃ、また半時間後くらいに』

プツ、ツーツーツー。
一方的に通話が切られた。大学からここまでは車で約15分といったところ。何か手土産を買うとすれば半時間は妥当か。有言実行、杜島は本当に来るだろう。何故かそんな気がする。
ケータイをテーブルに置いて伸びをする。

どこまでも不本意とは言え、今の部屋の有様は客人を迎えるには汚すぎる。
書きかけのレポート、昨晩の夕飯の残骸、脱ぎっぱなしの衣服、数週間前の雑誌。
俺は渋々重い腰を上げた。
まずは何から取り掛からなければいけないだろうか。
洗い物も洗濯物も数日前から溜まりっぱなしだった筈だ。
ゴミの日を逃してゴミも一袋、ベランダに出ている。次は明後日か。…朝から講義があるから今回は大丈夫だな。
処理しなければいけないものを挙げれば、キリが無かった。

とりあえず、時間もかかることだし洗濯が優先か。
床に散乱している昨日着ていた服に、寝間着を脱いで重ねた。腰ほどまでの箪笥の引き出しを開き、新しい服を取り出し手早く着衣。服をまとめて持ち上げ洗濯機を置いている洗面所へ歩く。
家事に追われる休日なんて、いつぶりだろう。
洗剤を乱雑にけれど数値に的確に、洗濯機へ入れてスイッチを押す。ゆっくりと洗濯機が作動し始める。
洗濯にかかる時間はどれほどだったか。半時間以上かかっただろうか。杜島が来るまでには間に合わないかもしれないな。…まあ、どうとでもなるだろう。

洗面所に踵を返し、ふと先程の電話での杜島が放った言葉を思い出した。部屋に戻り、ケータイを手に取る。
メール新規作成の画面を開いて、文字を打つ。




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