なんでもなかった日中が、とんでもない放課後になったオレ、斉藤 崇の一日。 授業終わって家に帰ろうと学校を出ようとしたとき、正門のところにいたこの男に呼び止められ、突然「付き合ってくれ」などと告られたのだ。
「うん。絶対に嫌。」
もちろんそんなこと容易くじゃなくても頷けるわけがない。 ニッコリ笑顔で告られたから、こちらもニッコリ笑顔でサラリとお断り。 罰ゲームなのか、遊び目的なのか。脅されているのか、賭けているのか、なんなのか・・・。とりあえず何を考えているのか分からない。 けどこの男は相当、自分に自信があったようだ。
「えー!?なんで!?」
「なんでって・・・。」
こんなオレにアッサリとフラれ、驚いた顔を見せる。
「なんで断るの?だって俺、優良物件だよ!お金はまだ自信ないけど成績だって悪くないし、顔も性格もイケメンだよ!断る理由なんてないはずだよ?」
「自分で言っちゃうんだ、それ・・・。」
「だって女子なら簡単にお股「ちょッ?!いきなり何言おうとしてんだ!それ以上、言うのやめーッ!!」
この男と言葉を交わしたのは今日。というか今が初めて。 でもコイツ、羽前 篝のことはこうして会う前から知っていた。 一つ年下。二年の特待クラスにいて噂で渡り歩いたコイツの名が上も下も珍しいから、なんとなく頭に残っていた程度。 見た目は異性はもちろん。同性から見てもカッコよく思えるイケメンで、間違いなくモテるタイプの外見。 そんな人に告られて逆に申し訳ないぐらい。だが断るオレ。
「悪いけどオレ、そういう趣味ないから。」
コイツの辞書に『フラれる』という文字は(恐らく)ない。 そんなことなど経験するはずが絶対にないと言っても過言じゃないのに・・・。オレなんかにフラれてざまぁみろ。 コイツの人生に『フラれた』という歴史を刻ませた。
「じゃ、さよなら。」
そこで終わってくれれば、こちらとしても有り難かったのに。
「待ってよ待って!」
そういうことはやはり簡単に納得出来なかったようで、立ち去るオレを追いかけて人の前に立ち塞ぐ。
「なんで!?なんで断るの?断らないでよ!」
「いやいやいやいや。断る、断るよ。そういうことは余所に当たってくれ。んでもってそこを退け。邪魔。」
「えーーー・・・。」
断られない100%の自信は、イケメン特有の余裕かい? それならますます何を考えているのか怪しいところだ。 それに、
「あのさ。そもそもなんでオレ?本当は誰でもいいんじゃないの?」
『なんで』の台詞は、コイツではなくコッチの台詞。 何もかもがありきたりで凸もなければ凹もなく。どこにでもいて目立たず、特徴という特徴がない平々凡々なオレ。 自分で自分のこと言って悲しくなるのもアレだけど、もっといい人可愛い人を。コイツ自身と釣り合う人を選ぶべきだと断言してやる。
「そんなことない!誰でもよかったら、こんなこと言うはずないだろ!」
「・・・・・・!」
するとコイツは、そう大きな声で否定してきた。 それはオレの考えを覆すつもりなのか、合わす目も真剣そのもの。
「だって、俺ー・・・。」
一線に繋がる視線が、この心を少し揺らさせた。 が、
「だって俺、男と一回付き合ってみたかったんだ!」
「あー、うん。それ誰でもいいよね。オレじゃなくてもいいよね、それ。」
その発言により前言撤回。 5秒も満たなかったけど、その時間を返せ!この野郎!!
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