神崎先生は俺に、
「昨日のことは・・・、なかったことに。」
ーーー・・と。
「忘れて頂けれないでしょうか。」
「!!」
頭を深く深く下げて、謝罪を述べる。
「錦くんもご存知だと思われますが、先生は結婚していて。・・・っ・・・奥さんもいて。」
知ってる、知ってたよ。 昨日のあの時も。 今も。 左の薬指にいる指輪の輝きが疎ましいほど、ちらついていたから。
「・・・・・・。」
知ってる、知ってたよ。 最初から結局こうなってしまうことだって分かってた。
「昨日は錦くんにあんな真似をしてしまい、本当に・・・。本当にすみませんでした。」
神崎先生は、優しい人だから。
「そう、ですか。」
どちらに対しても傷付かない選択肢を選んだのだろう。 そう。 神崎先生は優しいからー・・。 だから俺は、そんな神崎先生に。 あるモノを制服のポケットから取り出した。
「神崎先生。『これ』なんだか分かります?」
「え?」
それは一つのスマートフォン。 最新モデルの俺の携帯電話。 アルバムフォルダーを開いて、ある写真を見せる。
「ーーーッ!?」
そこに映っていたモノ。 それは昨日の衝撃的なあの出来事が。 モザイクという優しい修正すらない映像が、生々しく撮られていた。
「困りますよね。こんな写真が色んな人に行き渡ったら。」
今まで聞いたことのない俺の声色に、戸惑う神崎先生。
「に、錦・・・くん・・・?」
他人の目から見れば、それは『神崎先生が俺を無理矢理犯している』ようにも見えてしまう写真。
「未成年の生徒に強制猥褻、なんてことが知れ渡ったら困りますよね。」
「そ、それは・・・!」
「この業界からは永久に追放され、奥さんとももちろん離婚・・・。なんてことになってしまいますし。」
それは今目の前にいる人以外、誰もが疑わないだろう。 始めから神崎先生を俺がハメて、騙していたとはー・・。
「困りますよね、この写真バラまかれたら。」
極限にまで追い込み、負わす責任。 写真の答えがどうであれ、致した事実は変わらない。 切羽詰まった神崎先生は恐れをなしたのか。
「やめて下さい、そんなこと・・・!」
「!」
「お願いです!それだけは・・・ッ・・・。それだけはやめて下さい・・・!」
俺が一番待っていた言葉を。 後も先も考えないで、易々と吐いた。
「本当にやめて下さい!何でもしますから、それだけは・・・ッ!!」
「なら神崎先生。俺とー・・・。」
それを聞いた俺は笑顔をニッコリと見せて、こう答えた。
「付き合っていただけませんか?」
その答えが『ノー』であっても、そんなことなど言わせない。 『ノー』しかない答えに『イエス』の選択肢しか与えない。
「今『なんでもする』って言いましたよね?」
言われるがまま。 なすがまま。 頷くことしか出来ない神崎先生は優等生の錦 浬ではなく、その仮面の下にいる本当の俺を知ることとなるだろう。 さぁ、始めましょうか。 貴方はただ俺を愛してくれるだけで、最悪なシナリオを免れるのだからー・・。
つづく
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