翌日。 いつもの時間で家を出て、最寄のバス停からバスに乗り、学校を目指す。 今日も車内は主に通勤通学する人がいて大変混雑。 つり革を掴めるだけでもありがたい話。 だけどその時、ガタンッと揺れたバス。 その揺れで俺の腰がビクついて、よろけてしまう身体。
「!」
するとそんな俺を支えるように、俺の腰に後ろから手を回してきた男。
「危ないな〜。浬、大丈夫?」
「・・・・・・・・・。」
振り向くとやっぱり生徒会長の福原がいて、また人の背後をとってニコニコとした顔でご登場。
「そんなに腰しんどい?って、それもそうか。昨日の浬、すごかったもんね。」
「・・・・・・・・・。」
「ああ。それを思い出すだけで、ボクの股間がエクセレン・・・ごふっ「黙れ。」
しかし正反対な機嫌の俺は、挨拶代わりで奴の腹に肘打ちを。 語るそれを途切らせると共に、腰にいた手を退かす。
「痛たたた・・・。何も本気で肘入れなくても。」
「知るか。あと、俺のこと気安く名で呼ぶな。」
「あらららら?今日は随分とぶっきらぼうなお口だね。『いい子の錦くん』は、どこいっちゃったのかな?」
そしてこんな奴に、年上だろうが生徒会だろうが何だろうが、礼儀なんていらない。 昨日の今日で調子に乗って、俺を名で呼び捨てるのだって気に入らない。 だから優等生としての仮面を被ることなく、本来の俺を曝け出して冷たい目で見る。
「こっちが素。ー・・・なんて言ったらどうする?」
『いい子の錦くん』とは違う口調、違う声色、違う雰囲気でいるから、福原も最初は呆気に取られていたが直ぐに慣れた模様。 そんな俺を見てコクンと頷き、
「そんなの俄然、興味出るに決まってるじゃない。」
「え。」
「その強情なプライドをへし折ったら、浬こそどうなるんだろうね?」
「・・・・・・・・・。」
「泣くのかな?壊れるのかな?想像しただけでゾクゾクしてきたよ、ボク。」
引くことを覚えず、ウェルカムで大歓迎。 性癖の血まで到達させてしまい、俺が狙った効果とは真逆な結果となった。
「・・・ど変態野郎。」
「素直って言ってくれない?ボクは訊かれたことを、ありのままな気持ちで答えたまでだから。」
それから走るバスは、目的地である学校最寄りの駅で俺らを下ろしてくれた。 するとそこには及川が待ち伏せていて、2人揃って出てきた俺と福原を見て意外な表情を見せる。
「おはよー、浬く・・・。って、福原会長とも一緒だったんだ?」
「どーも♪浬の恋人です。」
「うぇ!?福原会長と、もうそこまで仲良しになったの?昨日の今日で!?凄いね、浬くん。」
「何も凄くないよ春希くん。一方的につけられて勝手に言ってるだけだから。」
そんな及川の話を聞いて、逃さなかった福原。
「え?なになに?昨日の今日ってどういうこと?」
すっごい興味津々に食いつく。 及川も及川だ。 また頼んでもないことを続けて言い、余計なお世話を働かす。
「生徒会には今まで興味なかったって言ってた浬くんが、福原会長のことを僕・・・。色んな人に聞き回っていて〜。」
「へぇ、そうだったんだ。・・・へぇ〜、それで昨日。なるほどね〜。」
けどそれをポジティブにプラスで捉えた福原は、昨日のことはさて置かせて、さらに調子を乗せてきた。
「でもそれは嬉しい話だな〜。浬なりに、ボクのこと気興味持ってくれてたってことでしょ?」
「福原会長、本当に嬉しそうですね。」
だから及川以外にも同じ学校の生徒が周りにいるのに構わずして、福原は俺に告げてくる。
「うんっ。だってボク、浬のこと大好きだし。」
「「・・・・・・・・・。」」
周囲にいるたくさんの人を証人にさせてまで。 おかげで時が止まった一瞬。 そしてあっという間に騒つき始めた周り。
「おぉっと、いけない。ボク、生徒会室に行かないといけない用が朝からあったんだった。じゃあね。」
その噂となる種が撒いた当人は、スタコラサッサーと。 言うだけ言って、1人先に去って行った。
「福原会長って、ストレートだね・・・。」
及川もまさかそんな流れになるとは思わず、ポカンとした顔をする。 だけど自分も証人の1人となった対象者。 俺の回答が気になるのか、こっちをチラリと見てきた。
「で?どうするの?浬くん。」
「どうもこうも100%ごめんなさい。お断り、かな。福原さん、軽いジョークのつもりで言ってたのかもしれないし。」
「えー、そうなの?割と浬くんと福原会長お似合いだと思ったのにー。」
「春希くん、冗談でもそれ言わないで。俺、あの人と会ってからロクな目にしか遭ってないから・・・。」
「そ、そうなんだ・・・。浬くんも大変だね。」
しかし俺は、そんなことよりも。ここから広がっていく噂の波がどこまでいくのか気がかりで、それどころではない。 奴からの告白など、どうでもいいことには変わりなく、祖父の耳にまで入らないことを祈った。 人の噂も75日。しばらくすれば忘れていくものだ。 けれどその初日となった今日は、教室内でもガヤガヤと話題の種が既に花を咲かせていた。
「錦くんって福原会長と付き合ってるの?」
その真相を今か今かと知りたい女子を始めとした生徒が、次々と俺の元へやってきて聞き出そうとする。 中には『錦 浬に彼女できない理由は、そういうことだから』と認識する男も現れ、しっちゃかめっちゃ状態に。
「なるほど。既成事実って、こういう風に作られていくんだね。2人のおかげで、1つ勉強になったよ。」
及川もフォローに回り手伝ってくれたけれど、キリがない。 『違う』を言い続けるだけでも一苦労。
「浬×春希は、もうダメ?需要ない?旬過ぎちゃった?」
「春希くん、それも違うでしょ。」
75日もかかる人の噂。 それは2ヶ月以上の日数で、その長さに改めて絶句を覚えた。 言い出しっぺは本当、なんてことしてくれたのでしょう。
|