遅刻という内申に響くマイナス要因に怯え、必死に走ってようやく学校に到着。 本鈴まで全然まだまだ時間に余裕あったけど、それでも間に合ったことにホッと安堵な息を吐いた。 そして教室に入ると、今日も変わらずと言っていいのか。 大瀬が自分の席でうつ伏せて寝ていたのだ。
「・・・・・・・・・。」
自分が病欠していた間、彼に何があったというのか。 大瀬は朝も昼休みも、ずっとこんな調子。 授業中は流石にうつ伏せていないものの、どこか腑抜けている。 及川に大瀬のことを訪ねても『放っとけ』の一点張りで変わらないまま。 こっちもこっちで、いったいなんなのかよく分からない・・・。
「大瀬、くん。具合悪いの?大丈夫?」
だから及川の情報を無視して、大瀬に歩み寄ってみたものの、
「ーーー・・・。」
「え?」
「・・・放っといてくれ。」
その途端にガタンッと席を立たれ、何処かへと行ってしまった。
(ご機嫌ナナメ・・・、というヤツか?)
大瀬本人からも『放っとけ』と言われた以上、その通りにするしかない。 2人の人間から同じことを言われたのだ。 もう俺から彼に出来ることは何もないようだった・・・。
(それでも風邪が移ったわけじゃなくてよかった。)
それから午前の授業は終わり、昼休みへ。
「福原 蒼士会長でしょ?知ってるよ、今期の生徒会長だもん。むしろ浬くんが福原会長を知らなかったことの方が驚きだよ。」
「あはは・・・。生徒会には興味なかったから。」
及川なら福原のことを少しは知ってそうだったから、その少しでもいいから奴の情報を収集する。
「でもどうしたの?急に。福原会長のこと訊いてきて。」
「今朝、その福原さんと会って色々ちょっと。」
「それで今朝、バス停で待ってても、なかなかこなかったんだ?」
「あ、やっぱり今日も待っててくれてたんだ。ごめんね、春希くん。」
「ううん。約束してたわけじゃないし、僕が一方的に待ってただけだから、そこは気にしなくていいよ。」
するとそれは尋ねた通りの読み通りで、及川は俺よりもアイツのことを知っていた。 俺らよりも1つ年上で、先輩であったことも同時に知る。
(まあ年下って感じはしなかったのは確かだったが。)
「・・・気になるの?福原会長のこと。」
「今まで知らなかったから、名前だけでも知りたかっただけだよ。」
「そうなんだ・・・。」
おかげで見知らぬ人が、見知った人になっただけで、印象は他人以下。 今度とも近付きたくない。近寄りたくない。 見知らぬままでも全然困りはしなかった存在。
「いや、ね?福原会長・・・っというより、ここの生徒会。ちょっと変な噂あって。浬くんは、あんまり耳に入れない方がいいんじゃないかなって思って。」
「え?」
「僕も最近、女の子たちから聞いた話だよ。噂話だから、本当か嘘かさえも分からないお話。」
「それって、どんな噂なの?」
「えっと、聞いても怒らない?浬くん。」
「話によっては・・・。春希くんには怒らないから、大丈夫だよ。」
けれどどうしたことだろうか。 及川は福原に関しての続く話に、言葉を濁らす。
「・・・あの人たち、ね。」
でも彼の小声な証言によって、
「女子生徒を連れ込んで、生徒会室でまぐわってるっぽい噂あって・・・。」
「・・・・・・・・・は?」
福原とは他人のままでいるわけにはいかなくなった。
「はぁぁああ!?」
「わーっ!浬くん声大きい!」
今、何て言った!? 今、何て言った!?!? 今、何て言ったーーー!?!?!? 福原に関するあまりの話に、ついありのまま驚いてしまった。 それは仮面だろうが素だろうが、そんな俺のことなんてどっちだっていい。 今はそれどころではない。
「いや、だって・・・!」
「噂だから噂!本当か嘘かも分からない噂話だから、落ち着いて浬くん。」
嘘か真か、それすらも分からない曖昧な噂話。 けどそんな話を聞いたら黙ってなんていられない。 そんな疑いを持つような行為をしてる連中を野放しになんて出来ない。
(お爺ちゃんの学校で、何てことをしてんだアイツはー!!!)
この怒りは、祖父の孫として、心強く芽生える。 自分のことを棚に上げて・・・、というツッコミは入れないようにして。
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