「・・・う。」
途絶えた意識から目を覚ます。 騒々しかった周りが静かになっていて、視界に映ってきたのは大瀬だった。
「大丈夫か?浬。」
「大・・・瀬・・・?」
どうやら意識を失っていたのは、ほんの一瞬。 大瀬に倒れた体を支えれて保健室のベットで寝ていたようだ。 嗚呼。ただ具合悪くして倒れただけだというのに、あんなにも野次売って、下らない注目浴びるなんて・・・。
(本当、恥晒しもいいとこだ。)
「ほら、浬。これで熱測れ。30秒ぐらいで鳴るやつだから、すぐ終わる。」
「・・・・・・。」
その間も不機嫌のまま。 無理もない。 あんなにも恥を掻いたのだ。 さすがに仮面を被っていても、この機嫌は隠せられない。 だから大瀬に何を言われても何をされても、無言のまま何も返さないでいた。
(・・・・・・。)
30秒ほど時間が経ち、体温計がピピピと鳴る。 表示された数字を見ると、高熱な今の体温を示していた。
(・・・こんなにもあったのか。)
「これは寝てるしかないな。」
それはもちろん大瀬にも確認された。 使った体温計を俺の代わりに元の位置へと戻す。
「担任来たら、親に迎え来てもらえるよう言っておかないとな。」
「来ないよ。」
「・・・え?」
「親ならどっちも来れない。どっちも今が仕事の山場だって言ってたから。」
そう自分の家庭のこと、大瀬にを軽く話した俺。
「そう、か。」
自分の熱を知ってしまうと、余計に具合が悪くなる感じがするのはなんでだろう。 体は熱く、重く、しんどい。 吐き気はないものの、本当に少し横になっていた方がよさそうだ。
それから数分後。 閉じていたカーテンが静かに開く。
「!」
するとそこにはなんと俺の担任の先生と、神崎先生の二人がいたのだった。 担任はともかく、なぜ彼までそこに・・・!?
「んじゃ後のことは先生に任せるから、俺は教室に戻るな。」
「錦くんを看ていてありがとう大瀬くん。もう授業は始まってるから静かに戻ってね。」
「はいはい。んじゃあ浬、お大事に〜。」
大瀬は二人の先生を見ると、そう俺のことを二人に任せて保健室から出て行った。
「錦くん。具合は大丈夫かな?」
担任とは以前のこともあり、神崎先生といるだけで妙な空気を感じた。 けれど担任は何事もなかったかのように。 こんな空気をさっさと流そして、俺の容体を伺う。
「保健室くる前、家の人に電話したんだけど連絡付かなくて。」
「どちらも今仕事が山場で忙しいので、きっと出られないんだと思います。」
「うん。でもこのまま保健室で休んでても、きちんと体を休められないと思うから、今日はこのまま早退しようか。」
「え。」
「とはいえ先生も授業があるから、ちょうど神崎先生が時間空いてるとのことで来てもらって・・・。」
そして担任は、どうして神崎先生を一緒に連れてきた訳を話す。 なるほど、そういうことか。 別にこのまま一人で帰ってもよかったのに。 理事長の孫として。 この学校の生徒として。 どうやら、そういうわけにはいかなかったようだ。
「・・・ということで、錦くんのこと。あとはよろしくお願いします神崎先生。」
「分かりました。こちらこそよろしくお願い致します。」
担任は俺のことを神崎先生に任せ、教室へと戻って行く。 神崎先生と二人きり。 ただそれだけでこんなにも静まり返る。 その空気はとても張り詰めていて、この心さえも緊張にさせた。
「神崎先生。どうしてここに・・・?」
けれど神崎先生は、
「そんなことより。」
たったその一言で全てを片づけてしまう。 こんな俺の思いすらも。
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