そのとき、
「!」
「ん?」
バイブレーター音がブーブー鳴り響く。 自分のもう一つのスマホが、メールを着信したようだ。 あぁ・・・。こっちのアドレスは校内ではあの人しか知らないので、誰からなのか見ないでも分かる。
「メール?見なくていいの?」
「あ、うん・・・。あとでいちお確認しておくよ。」
その相手と内容が予想でき、顔が青く染まってしまう。 さっきがさっきだったからな。 あまり体調がよくならないから、ぜひともお手柔らかにしていただきたいモノだ。
「・・・・・ん。」
そんな中、今ごろモソモソと体を起こした大瀬。 やっと起きた彼は寝ぼけた目をしていて、ボリボリと頭を掻いている。 どうやらあれだけ人を巻き込んでおきながら、ガチで寝ていたようだ。
「そうだ、保健室。」
そしてゆっくり、のっそり立ち上がり。 そのまま後ろから前の席で座っている俺を、腕一本で捕獲。
「及川、こいつ借りてくぞ。」
「は?」
「へっ!?」
いきなり捕まえられて。 いきなりそんなこと言われて。 突然の話に俺はもちろん、及川でさえついていけれてない。
「ほら。保健室行くぞ。」
「わわ!?ち、ちょっと・・・!」
それでも大瀬は気に構わず、腕一本で俺を捕まえたまま。 ズルズルと人を引きずり教室の外へと連れ去って行く。 何が何だか分からず、俺はただなすがまま拉致られらのであった。
及川を教室に置き去りにしたまま、どこかへと連れて行く大瀬。 やっと大瀬の腕一本から解放された俺は、廊下を歩きながら事情を聴く。
「お前、本当に大丈夫か?」
「え?」
「さっき触れて分かったんだが、熱出てないか?」
「・・・え?」
人に言われて、やっと気付く自分の体調。 顔色は血が引いているように青白い。 けれど体は異様に熱くて、呼吸もなんだかいつもより早く繰り返しており、目の前がグラグラと歪んでいて、そしてー・・。
「!!」
気づいた途端に体の力が一気に抜け、その場に倒れ込んでしまう。
「浬!?」
ドサッと倒れた音に周りにいた人たちも気づく。 周囲は一気に騒がしくなり、人が集まってきた。
「しっかりしろ!浬!」
「・・・ッ・・・!」
「え、なに?錦くんどうしたの?」
大瀬に支えられ、倒れた体を起こされる。 呼吸するだけで苦しくて、何度も何度も早く繰り返しては吐く。 体が熱い。 気管が苦しい・・・! 自分でも何が起きているのか分からない。
「バ・・・ッ!?バッカじゃねぇの!?浬すごい熱出てるじゃねぇか!」
触れられた額で熱を測られる。 ああ。そうか。 俺、風邪引いていたのか。 どおりで朝から調子が上げられず、ずっと悪寒を感じっぱなしだったのか。 そりゃ、そうだよな。 雨がザーザー降っていた中、あんなにもびしょ濡れていたわけだし。 そのあと神崎先生に長時間、素っ裸でいさせられたのだから。 そりゃぁ、風邪引くよね。
「待ってろ、今すぐ保健室に運んでやっから・・・!!」
あの時のスマホに着信したメールの内容。 それはもちろん神崎先生だったけれど、その内容は昼休みに呼び出される用ではなかった。
『今すぐ保健室に向かって、学校を早退して、ゆっくり家で休んでください。お大事に。』
神崎先生も、あんな授業の中でも俺の体調不良に気付いてくれていたようだ。 けれど俺はそんなことにも気付かず、確認を後回しにしてしまった。 朦朧とする視界。 周りの声がだんだんと遠くなっていく。 そして途絶えていく意識が俺を暗闇の夢へと引きずり堕とす・・。
|