全寮制の男子校、青ノ葉学園にて。 3月が終わって4月が始まった最初の日。 春休み真っ最中だけど朝から練習があった部活動に向かい、靴を履き替えていたときのこと。 一通の手紙が。俺、渡部 鳴海(わたなべ なるみ)の下駄箱からハラリと落ちてきた。
「なんだ、これ?」
そして拾ったこの手紙を読み、これがただの手紙ではなかったことに、ただならぬショックを受けた。
「はぁぁぁあああああ!?」
一目通しても頭が追い付かず。 二目通しても頭に整理がつけられない。 それでも分かったことは、たったひとつ。 男しかいない青ノ葉という男子校の世界で、俺は告白されたのだった。
(マジで!?ウソだろ!オイッ!!)
いやいやいや。いやいやいや。 確かにこの青ノ葉でも、それっぽいカップリングが少なからずいて、それっぽい奴らを見かけてきた。 男子校に通ってる時点で、いつかこんな日が訪れるんじゃないかって思ってた。 けど実際、自分が告られたとなると覚悟していたはずの気持ちだって当然変わってくる。
(そもそも誰!?『わたぬき』って誰!?そんな人、この学校にいたぁ!?)
いやいやいや。いやいやいや。 だってこの文章を読む限り。今もどこかで俺はどこぞの馬に狙われているってことだろ? この♂マークが一見あどけなさを演出させているようで、多大なる本気を表しているように感じた。
(ヤバイよヤバイよ。俺、これ、どうしたらいいの!?)
肝心の差出人が誰なのか分からない。 仮名使ってるパターンも考えたら全員怪しい。もしかして全世界の男が俺のケツを狙ってる!?なんだソレ?嫌すぎる!! そんな膨らむ被害妄想が気を休ませてくれなくて、所属する演劇部の練習にも身が入らなかった。 おかげでー・・・。
「鳴、グラウンド10周。」
「へっ!?」
演劇部部長。青ノ葉学園3年生の華澄 輝夜(かすみ かぐや)、輝夜部長のお怒りに触れてしまう。 ちなみに『鳴』というのは俺の通称名、言わば『鳴海』からとったニックネーム。上級生も同級生も俺を知る野郎は皆、俺のことをそう呼ぶ。
「来週には勧誘会(本番)が控えてるというのに。何?その腑抜けた態度。自分が演じる役に申し訳ないと思わない?」
「ご、ごめんなさい輝夜部長。しかしこれには訳があって。」
「言い訳しない。腑抜けた理由がどうであれ、部の空気を乱した罪は重い。とっととグラウンド走ってきな。」
そして輝夜部長は演劇を観るのも演じるのも好きな演劇一筋の先輩。 だからいくら練習とはいえ真面目にやらないと、簡単に怒りに触れることが出来るのだ。
「ひぃぃぃ!ヤダヤダヤダ!今の俺を1人にしないで!」
「はァ!?」
でもこのときばかりは俺も必死に抵抗。 気が休めれなくて集中してなかった否は認めるけど、今だけは。今だけは1人になりたくないし、してほしくなかった。 そんなとき。まるでこんな俺を救ってくれるかのように、演劇部に姿を見せた彼。
「お邪魔しまーす。輝夜こっちいる?」
「お、あきこっち〜。終業式ぶり♪帰ってたんだ?」
「うん。ついさっき着たところ。今度の衣装決まった?」
その彼というのは、青ノ葉学園3年生の鈴木 明人(すずき あきと)先輩。 廃部が決まった家庭科部に所属する唯一の生徒で、今も演劇部の衣装作りを手伝ってくれている。 そして色んな方向の相談にのってくれる優しい一面が、一部の生徒で有名になりつつあるお方。 まさに今の俺にとっては救世主様々だった。 だからこの偶然に感謝して、感激のあまり体現化。
「明人先輩助けて!俺を助けて!!」
「わーっ!?あー・・・、ビックリした。なんだ、鳴くんか。」
輝夜部長との話を遮らせてまで、いきなりガバッと抱きつく。 そんな突然の突撃ハグに、明人先輩も超ビックリ反応。 嬉しさにのあまり、めちゃくちゃ申し訳ないことしてしまったようだ・・・。
「鳴〜・・・。あきに助け求めるほど、そんなにグラウンド走りたくないってこと?」
「違います違います。輝夜部長ちょっと黙ってて!」
「なっ!」
「助けてって何を?鳴くん、どういうこと?」
「なんか今日ずっと様子が変なんだよ、鳴のやつ。周りばっか気にしてて。」
「ふむ。」
明人先輩は3学期が終わった翌日から今日の今まで、実家の方に帰省していた身。 そんな帰ってきたばかりの人が、俺の下駄箱にあんな手紙を投函出来るわけない。 だから俺は彼の噂を信じて、最初の1人として頼ることにした。
「・・・分かった。何か訳があるみたいだね。輝夜、ちょっとの間だけ鳴くん借りるよ。」
「はいはい。こっちもあまり時間ないから早めに戻ってきなね。」
そういうわけで輝夜部長には席を外してもらい、俺らも明人先輩と一緒に場所も移す。 そして辺りには彼以外いないことを確認してから、俺は自分が誰かにラブレターを貰ったことを相談の種として明かした。
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