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青 ノ 葉
男子高校生たちのお緩い物語
[男子校全寮制][日常系青春コメディ]



#89 昼下がりの目撃者(6/6)
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把握する者と察する者

その言葉を聞いて、瑛は何を理解したのか。

「・・・そういうことか。」

空がいまいち喜んでない理由も。
鳴が朋也の邪魔した理由も。
なんとなく。
なんとなくだけど把握してしまう。

「古河たちが空を呼び出した用って、これだけ?なら俺らは、これで。ちょっと空と2人で話したいことあるから、もう行っていいか。」

「あ・・・はい。ドウゾ。」

けど朋也は、あんまり分かってない模様。

「え?え?え???」

「鳴・・・・・・。」

顔色が悪くなっていく空の様子からして、このまま鳴と行かせるのは、何かマズイんじゃないか。
それだけは察することが出来たから。
だから去って行く2人を。
瑛と一緒に黙って見送って本当に良かったのか。
正解か、不正解か。この答えに不安が募る。

「んじゃ、空先輩のことは鳴先輩に任せて大丈夫だから。俺たちも戻ってテス勉の続きやるか。」

「・・・・・・・・・。」



購入した当時のエピソード

そして朋也たちと先に別れて、誰も来なそうな寮内のどこかに。
鳴が真っ直ぐ向かうから、そのあとを大人しくついて行く空。

「鳴・・・、ごめん。ずっと・・・、それ。どこかに落としていたこと・・・・・・黙ってて。」

何も言わないままは嫌だったのだろう。
そう静かに改まった声で謝ったが、どこか怯えていた。

「いやぁー、俺もビックリしたよ。コイツが後藤の手から出てきた瞬間、めっちゃ変な声出そうになってヤバかったわ。」

しかし鳴は、その反面。凄く懐かしい顔で、手に翳したキーホルダーを見ている。
だってそれは、

「これって確かアレだろ。中学の時、空が初めて大会に出るって話になって。少ない小遣いの中で俺も何かしら、いい感じの応援がしたくて引いたスーパーかどっかのガチャポンくじ。」

「うん・・・、そうだよ。でも厳密に言えばスーパーじゃなくて、ファミレスのガチャポンくじ。僕を祝う激励として、クラスの友達と一緒に寄り道した日・・・。持ってた1000円はファミレス代だから使えないって言って、他は1円とか10円とかしか残ってなかったけど100円分はあったから。お店の人に懇願して逆両替えてもらって・・・。」

まだ2人が中学生だった頃。
鳴から空に。
初めて陸上部の大会に出ることになった空を、応援したくてプレゼントした贈り物だったから。

「あー、そうだった。そうだった。やばー・・・。それ引いたの俺なのに、俺より空のが覚えてんじゃん。」

「だって僕、あの日だけで一生分の恥掻いたから・・・。」



初めて・・・だったから・・・

「でもさすがに結構ボロボロだね。よくここまでもってるというか、千切れたのがストラップの部分だけでよかったというか。」

「鳴・・・怒ってない、の?僕・・・それ、今まで失くしていたのに。」

だから今は空のだけど、元は(一瞬だけ)鳴のだったというわけ。

「これぐらいじゃ別に怒んないけどー・・・。逆になんで空は俺に怒られると思ってたのさ。」

「だって・・・・・・。」

「だって?」

けどそれを自分の不注意とはいえ、空は落としてしまったのだ。
それが知られるのが怖くて、鳴には言えずに黙っててしまったんだ。

「鳴から初めて・・・、貰った物だから・・・。」

「!」

贈った当時のエピソードは、どうであれ。
このお守りキーホルダーこそが、初めて鳴からプレゼントされた物だったから。

「あー・・・、そういやそうだっけ?」

「うん。鳴が僕にあんな恥を掻かせてまでくれたおかげもあって。あれ以上の恥は、大会でも掻くことないって思えさせてくれた、大事なお守りだったから・・・。」

「ごめん空。それは空じゃなくて俺が謝った方がいいんじゃないのかな。今さらすぎるけど、空に恥掻かせてまであげたキーホルダーを。そんなに大事にしてくれてたとは、俺も思ってなかったし。」



返す隙を利用して

けどこうして鳴が怒ることはなかったから、空が抱いた不穏は起きずに済んだ。

「どおりで最近、空の調子が悪かったのか。・・・そっか。」

「・・・・・・・・・ごめんなさい。」

「だからもういいって。全然、空が謝ることないし、無事見つかって良かったじゃん。」

ー・・・はずだったが。

「ほい、空。コイツを返するから、手ぇ出して。」

「うんっ。」

鳴の手から空の手へ。
お守りキーホルダーを返した、まさにその時。

「・・・ッ!」

その隙をついて、鳴は空にチュッと口付けたのだった。



もう1回、あと1回

それは今の鳴なりに。
大会間近なのに不調続きだった空を励ましたかったのだろう。

「へへっ。これでもっと元気出た?」

「ちょ・・・っと。またこんなとこで・・・っ・・・。また田邊先輩に見つかったりしたら・・・。」

「だから人気のないとこ選んで来たんだろ。」

友達だった、あの頃の方法ではなく。
恋人として、今ならではの方法で。

「ねえ、空。あともう1回、もう1回だけキスさせて。そしたら空が俺があげたプレゼントを落として失くしたこと、完全に許したげるから。」

「もう、そうやって直ぐ調子乗る・・・。」

「いいじゃん。せっかく他に邪魔者はいないんだから。」

「・・・・・・あと1回だけだよ。」

もう1回だけの口付けを。
あと1回だけの口付けを。
今は自分たちしかいない僅かな時間だからか。
それを何度も繰り返し合う2人だった。



見てしまった目撃者

しかし邪魔者はいなくても、目撃者は2人いた。

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

「前に・・・言ったことあっただろ。」

その1人は朋也。もう1人は瑛。
朋也は察した不安が気になって、別れたはずの空と鳴のあとを追ったら、この有り様。
2人のキスシーンを。
男同士で口付けし合ってるのを見てしまう。

「空先輩、2年の先輩と付き合ってる噂があるって。その噂相手の2年の先輩っていうのは鳴先輩のことを指してたんだけど・・・。あの2人、本当にデキてんだな。」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

それは何だか見てはいけないモノを見てしまった感が堪らず、言葉が出ない。出せない。
なのに瑛は朋也ほどの衝撃は受けてないのか。
聞いた噂は真実を語ってたことに『やっぱりか』と静かに頷いていた。

「ほら。分かったなら、2人の邪魔をしないうちに。気付かれないように部屋戻るぞ。」

「あ・・・・・・、ああ。」

そしてイチャつく2人に気付かれないうちに去ることに成功した2人。
けど見てしまったショックは大きすぎたのか。
どう例えていいか分からない、なんとも言えない気持ちが朋也に宿ってしまうのでした。



青ノ葉 第89話をお読みいただきありがとうございました


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