感謝祭ライブが終わった後のこと。
「いらっしゃいませ、11名で予約の真島様ですね。こちらへどうぞ。」
『お疲れ様でした』の意味を込めて。打ち上げとして焼き肉食べ放題のお店にやって来たクロスカルテット4、リライト2、アリカ1に社員組4の合計11人。 思いのほか団体となった客数だけど、前から予約しておいたので問題なし。
「オーダー式の食べ放題だから、注文はオーダーパネルから。好きなの頼んでいいけど頼みすぎて食べられないは罰金になるから注意してね。」
「えいちゃん、えいちゃん。ボク、パネルのとこ座ってもいい?これ触るの好きなんだ〜。」
「いいよいいよ。オレこういうとこ来るの初めてで、何がなんだか分からないからアズに任せるよ。」
「うんっ。こっちのオーダーはボクに任せてね。」
奥の個室へとスムーズに案内され、アリカチームとリライトチームの2と2でバランスよく別れて座った。 打ち上げとは言え、これも立派なお仕事の一部。 よってソフトドリンク飲み放題プランは選んだけど、アルコール飲み放題は選べない。
「・・・っと言うことだから。お酒は絶対に飲んじゃダメだよ、まひるん。」
社員組はこのあと各メンバーを送り届けなければいけない。ので飲酒運転するわけにはいかないから、自腹でも絶対にお酒はダメ。
「焼き肉屋に来ておいて酒飲むなだなんて、酷い拷問ですね。」
「兄貴、せめてノンアルコールはいいんじゃ?」
「志摩くん。それで豪酒のまひるんが満足するとでも思う?」
「嫌ですよ、ノンアルコールだなんて。ただのジュースと何も変わらないじゃないですか。」
おかげで真昼が初っ端から機嫌悪くしちゃったけど、まだ勤務中なので。まだ勤務中だから我慢してもらいましょう。
「そっち側、まひるんが飲まないよう。ちゃんと見張っててね。」
最初のオーダーは、とりあえずでドリンクを。
「えいちゃんコーラ。あんちゃん、てっちゃん、しまちゃんウーロン。ボクがレスカ・・・っと。」
「わ〜っ。それそうやって注文するんだ。凄いね!」
「えいちゃんもやってみる?やり方おしえるよ。」
「いいの!?教えて教えて。」
アリカチームのテーブルは、パネル係のアズがいるおかげで平穏。 そこにエーチも混ざって、キャッキャとほのぼのとしていた。が、
「こっちは全員ウーロンでいいですよね。」
「まひるん先パイ。お酒飲めないからって、オレらに八つ当らないで下さーい。」
リライトチームのテーブルは、真昼が不機嫌のせいで不穏。 希望を何一つ訊かずに勝手にオーダー確定させてしまう。 こんなまひるん、いつものまひるんじゃない! いつもの優しい彼は、いったいどこいっちゃったの!?
「あ、ドリンクきたよ!」
コーラ1、レモンスカッシュ1、ウーロン茶9。 全員にグラスの飲み物が渡ったところで乾杯。
「それじゃあ今日のライブ、お疲れ様でしたーっ。」
音頭をとったのは、もちろん徹夜。 彼の後に続けて「お疲れ様でした」と乾杯交わした後は、各テーブルごとで好き放題にお任せ。 食べたい物を次々、オーダーしていくのだが。
「あれ?ふかみんどこ行くの?」
「こ・れ(タバコ)。」
しかし開始早々、朝陽が一時離脱。 このメンバーで彼だけが唯一の喫煙者だが、このお店は全席禁煙。
「こういうお店、ホンット増えたよねー・・・。」
店内で吸うことは出来ないため、今のうちに吸い溜め込んでおこうと、店外にある喫煙スペースへ。「生きづらい世の中になった」とかブツブツ文句言いながら不機嫌に向かって行った。 そんな中、アリカチームでも雲行きが少々怪しくなる。けどそれはホンの一瞬。
「じゃあ志摩くん。どんどんお肉、焼いていってね。」
「なんで俺が!?」
徹夜のご命令で、焼き肉焼く係りは志摩に決定。 もちろん逆らいなど許しません。
「わっ!志摩ちゃんが焼いてくれたお肉美味しい!」
「ね♪しまちゃんが焼いたお肉おいしいね。」
しかしエーチとアズが「美味しい」「おいしい」と。志摩が焼いたお肉でモグモグ美味しく食べててくれているから、あっという間に文句はゼロ、役得状態となった。
「どんどん焼くからどんどん食べていいよ。アリカも兄貴もどんどん食べてくれ。焼き肉は全部、俺が焼くからさ。」
「志摩さんも単純だな・・・。」
「オス喰い狼の内心は、何考えてるか怪しいところだけどね。」
真昼に続いて朝陽まで不機嫌に不貞腐れ、どんどん不穏差が増していくリライトチーム。 しかも今度は、ユウの手によって。
「まひるーん。食べ放題対象外のやつ頼んでいい?」
「別途料金、ユウが払うなら構いませんが。」
「いいよいいよ。払う払う。」
ピンポーンと呼び鈴ボタンを押して店員さんを呼び出し、何を頼むのかと思えば食べ放題対象外の品物、
「すいまっせーん。このラム肉下さーい。」
「おい!!」
ラム肉を頼んでエヴァの前でわざわざ焼き始めた為、アリカから怒りのツッコミが入る。
「金払ってまで嫌がらせしたいって、どういうことだよ。」
「嫌がらせじゃないって。偶然、たまたま。食べたいから自腹で頼んだだけだしー。」
ジュウジュウと。 目の前の鉄板で美味しそうに焼かれていくラム肉を見て、ズーンと落ち込むエヴァ。
「・・・・・・。」
けど隣に座るキィは興味津々。
「それが羊のラム肉?」
「そう羊ー。プランがもう1個上だったら、これも食べ放題だったんだけどな。」
なのでユウからキィへ。
「いいなぁ。美味しそう!」
「キィちゃん、ちょっと食ってみる?」
「みるみる!食べさせてユウ。」
「熱いから気を付けなよ。はい、あーん。」
「あーん。」
おねだりして『あーん』で食べさせて貰った結果。
「わ!美味しい!この羊。」
「だろー?美味いだろ?この羊。」
2人して「羊美味しい」「羊美味しい」と連呼して、更にエヴァをズズーンと落ち込ませたのだった。
「・・・・・・ッ。」
「キィちゃんソレ、わざとやってねえよな?」
「エヴァー。美味しいよ、この羊。エヴァもユウに食べさせて貰えば?」
「いい、いい。いらないいらない・・・。」
「遠慮するなって。ちゃんとエヴァにも食べさせてやるから。」
すると次はユウからエヴァへ、キィの言葉もアシストにして。
「ほら、あーん。」
「・・・・・・ッ。」
『あーん』とエヴァの口元にラム肉を差し出したその笑顔は、黒光りにイキイキとキラキラ輝いていて、『ユウくん今日イチの笑顔』でした。 ちなみにユウはいじめっ子じゃないです。いぢるのが大好き人間なだけです。
「ユウ!やっぱりエヴァに嫌がらせしてるじゃねえか!やめろよ、そういうことするの!」
「だから嫌がらせじゃないって。アリちゃんは煩いねー。」
エヴァの苦手な食べ物を知ってるのに、食べさせようとする行為は立派な嫌がらせ。
「だってコイツ、割りと食わず嫌いなところあるじゃん。食べもしてないのに苦手だとか食べたくないとか言ってるしさ。そういうのって凄く勿体ないって思わない?」
こうでもしないと食べる機会がない、とか。言葉を色々と重ねて、訳やら理由やら述べて印象操作していらっしゃいますが、相手が嫌がってるのにやり続ける行為は立派な嫌がらせです。 いい先輩も悪い先輩も、そんなこと後輩に向かって絶対やっちゃいけません。 でもそんなユウの言葉に心打たれたのか。
「・・・・・・。」
一理あると頷いたエヴァは、レッツラム肉チャレンジ。 ユウのあーんをあーんで立ち向かっていく。
「お?くるか。はい、あーん。」
「おいおいおい!無理すんなって、やめろエヴァ!あ、あ、あ!あー!」
その間もアリカが「あー!あー!」煩かったが、それはそれで羨ましかったようだ。 そんなユウによる嫌がらせエヴァのラム肉チャレンジ。アリカに見守られながら恐る恐るで、あーんしてモグモグした結果。
「だ、大丈夫か?エヴァ。」
「・・・・・・。」
落ち込んで青かった顔色は、みるみる元の色を取り戻していく。
「ね?美味しいでしょ?エヴァ。これ、エヴァの好きなバジルソースだし。」
「・・・うん。」
それは彼が抱いた先入観による印象が変わった証か。 キィの問いにコクリと頷き、ユウの嫌がらせおかげで、苦手が克服された?瞬間だった。 けどそれは『真の羊好き』に近付いた一歩となってしまうのか。 苦手が克服に向かったのはいいことだけど、凄く複雑な心境だ。 しかしエヴァがその道に歩むことはないだろう。
「Hey、エヴァ。」
何故なら、
「エヴァの羊の縫いぐるみがお肉になっても、同じこと言えマスか?」
この様子を見てたイブから追い打ちが。余計な一言で容赦なくぶった斬ってきたから。
「ー・・・・・・。」
「コラコラコラ!イブもなんてこと言うんだ!!」
おかげで食べる前よりもズズズーンと機嫌が落ち込み、せっかくの克服から遠ざかり。 焼き肉食べ放題の店に来ておいて「もう肉食べない・・・」と、本日限りのNO肉宣言がエヴァの口から出てしまう。
「あーもー。イブ先輩もユウ先輩もエヴァいじめないでよ。本当に」
「謝って!いっちゃんもゆうちゃんも、えばに謝って!」
そんな様子に見るに見かねたエーチがエヴァと席交換。 リライトチーム側には、エーチとキィが。アリカチーム側には、アズとエヴァが。クロスカルテットも間で2対2に別れて席に着く。
「キィちゃんって、こういう食べ放題の店って来たことあるの?高級ホテルのビュッフェとかじゃなくて。」
「ないよ。でもこうやって皆でわちゃわちゃ食べるご飯って、楽しいね!」
そうして焼き肉食べ放題の打ち上げは、ガヤガヤと終始賑やか?だったのでした。
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