「君があおちゃんかな?」

陽が沈みかけているターミナル駅前。
駅のロータリー、ガードレールにもたれかかっていると、ひとりの男に声を掛けられる。
金髪がゆるくウェーブされた髪型。ところどこと毛先が遊んでいる。

あいつと、同じ、金髪。


「こんにちは、あおです。」
私はガードレールから腰を上げて、微笑み返しながら挨拶する。
もとは出会い系で会った男だった。誰も知らない人と出会いたかった。

あいつ以外の学校の男なんてどうでもよかった。私の目にはあいつしか映らなかった。
でもあいつは私のことなんて「何とも思っていない」と言った。
確かに、生まれてからずっと一緒だったいわゆる幼なじみだからと言って恋仲になるなんて、どこの少女漫画の話なんだと私も思うし、そんなの奇跡に近いことだってわかっているつもり。

でも、それでもずっと好きだった。あいつのことが。
いくら幼なじみだからといったって、それでも一丁前に女の子として、男の子のあいつのことが好きだった。


「あおちゃん、写真よりもずっとかわいいね。会えてうれしい。」
目尻を下げて彼が笑った。
知らない人と出会いたくて、
嘘。本当はあいつへの想いを消したくて
そしたらちょうどマッチングできたこの男。

「私も会えてよかったです。行きましょっか!」
あ、口角が歪むように上がった。
向こうも下心で私と会っているんだろう。そのくらいこっちも心得ていた。

こんなときでも思い返すのはあいつだった。

高校生になってから急に染め始めた金髪。今まで黒髪だったから全然見慣れなくて、高校デビューってからかったこともあったけど、色白のあいつにはその色が綺麗で、よく似合っていた。あまりにもかっこよくて、実は少しドキドキしていたのは私だけの秘密。

あんまり笑わないけど、でも笑ったときにできるえくぼ。少し幼くなるその顔が好きだった。気難しい性格だからそんなに女の子とも仲良くなくて、たまに私にだけ笑ってくれるそのすべてが好きだった。高校に入学して、急にモテ始めたから私一人だけ焦ったりもして。

ずっとずっと好きだったんだ。


あ、泣きそう。泣く。どうしよう。この人には悪いけど。
やっぱり嫌だ。
勝手だとののしってくれてもいい。張り手でも罵詈雑言でも受け入れる。
それでもいいからあいつに会いたい。

「ごめんなさい、やっぱり行けません。」
急に彼の顔色が変わるのを感じた。
「は?え?いやいやどうしたの。今日そういうつもりで俺と会ったんでしょ?今更ないよ、そういうの。ほら、行こ?」
「ごめんなさい...本当にごめんなさい!やっぱり無理です。」
「いや今更なんなんだよ、こっちが無理だよ。ほら行くよ!」

どうしよう。どうしよう。助けて。


「葵(あおい)!」


後ろから声がした。
生まれてからずっと隣で聞いてきた声だった。今、一番助けてほしい、来てほしいとも長ったあいつの声だった。
もっと涙が出そうになる。目の淵に涙が溜まっているのを感じた。

「っ、だいきぃ!!」

「すみません、こいつ返してもらいますね。」
「はっ?誰きみ。俺今からあおちゃんと今から遊ぶんだけど。いい加減にしてくれる?」
「うるさいよお前。」
「...っ!...男いんなら先言えよクソ女!」

男が暴言を吐き出しながら離れてゆく足音がした。
緊張から解放されて安堵すると同時に、別の緊張が私を襲う。
この状況、どうしよう。

お互い1分間は無言だったと思う。
「...葵。何してんの。」
「...!!」
「今日葵の誕生日じゃん。毎年家族でお祝いしてるじゃん。おばさんから、夕方になっても帰ってこないからちょっと探してきてって言われて、連絡したら『知らない男とこれから会う』って何。来てみたらもっと何。どうしたたこうなるの。」

単刀直入だなぁ。もっと推測とかしなよね。
「大輝、こんなに喋るなんて珍しいね。今日は私の誕生日だから一杯喋ってくれんの?私嬉しいなぁ...ってね。」
「...ごまかすなよ」
「...だって!!.......大輝は...
私のこと何とも思ってないんでしょ......私は違うもん...」
溜まらずに言ってしまった。もうおしまいだ。幼なじみというこの心地いい関係も。

「は?何言ってん...そういうことか...」
「あきれないでよばか...」
大輝を見上げると、そこには予想していたあきれ顔ではなく、思いのほか優しい顔をしていた。
「あきれてねぇよ.....いや、あきれたかもな。」
「ほらっ!!」
「何とも思ってなかったよ、この間までな。」
「えっ」
「最近ずっとスマホばっかり見てるからなんだろうと思ってた。見ちゃったよ、出会い系の画面やってるところ。」
「え...」
一生の恥じすぎる。最悪だ。出会い系の画面見られていたなんて。

「なにやってんだこいつって思った。でも同時に悔しくもなった。なんで他の人のところいくんだって。俺が隣にいるのに。ねぇ、何ともなんか思ってない。ただの幼なじみじゃない。それ以上に大事に大事に思ってるよ。だから帰ろう。」

涙はもうずっとこぼれていた。胸がぎゅっとなった。
なんで、どうして、一杯思うところはあるけれど、でもやっぱり一番思うのは

「好きだよ、大輝。幼なじみ以上に私もあんたが大事だよ。」

そういうとあいつはめずらしく顔をくしゃっとさせて笑った。


やっぱり好きだ。
えくぼのできるその笑顔。白い肌に似合ったその金髪。「葵」と呼ぶ声。
あいつの全部が好きだ。

「誕生日おめでとう、葵。好きだよ。」



「あお」じゃなくて「葵」
「幼なじみ」じゃなくて「恋人」


【その名前は。】


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