「おぎゃー!おぎゃー!」
時刻は夜中の3時を過ぎたところ。
ここ毎日、泣き声で目が覚める。
この声の主は3ヶ月前に生まれた息子、蒼時(あおと)だ。
残念ながら髪の毛は俺に似てしまって薄らながら天然めいている。
おそるべし俺の遺伝子。
「おーおー今夜もよく泣くなァ、蒼時くん。」
「あ、銀ちゃん起こしちゃった?ごめんね、昨日依頼あって疲れてるのに。」
そう言って一番疲れてるはずの嫁が、オムツを変えながら言ってきた。
朝から晩まで子守りをしていて寝る時間も削られてて絶対ェ辛いはずなのに、それでもにこにこ笑って息子をあやす姿を見ていると、母親ってすげーって思う。
いや、コイツが特別凄いのかもしれねェけど。
俺は起き上がって台所にある哺乳瓶を取り出しミルクの粉を入れポットの湯を入れた。
そのあと人肌にまで冷ますために水道水をボールに入れたあと、哺乳瓶をそこに入れ冷ました。
「お前こそ疲れてんだから寝てろよ。俺がミルクやるから。」
「…………。」
「おーい、聞いてんのか?」
「……銀ちゃんすっかりいいパパになったね?」
クスクス笑いながら蒼時を抱っこして連れてくる。
オムツを替えてもらってスッキリしたのか、さっきまでギャン泣きだったのに今は大人しく母親の腕に抱かれていた。
「そ、そうか?普通なんじゃねーの?」
「普通のパパは夜中に子供が泣いても起きないって聞いてたからねー。銀ちゃんは蒼時が生まれてから必ず起きてくれてるでしょ?」
「は?普通起きるだろ?昼間は依頼があったら一緒にいてやれねェだろ?だから夜くらい面倒見るだろ。」
「……そういうところが大好きなんだよねー。ねー?蒼時。」
さらっと嬉しいことを言ってくれる出来た嫁。
ちなみに余談だが、嫁が出産してからまだ一度も嫁を抱いていない。
俺はボールから哺乳瓶を取り出し温度を確認すると、バッチコイ合図を出した。
「オッケー蒼時、ミルク飲むかー!」
「いいよ銀ちゃん、あたしするから。明日も朝早いんでしょ?新八くん達に迷惑かけちゃうから寝ていいよ?」
「いいからいいから!銀さんに任せなさい!お前はゆっくり寝てろ、な?」
そう言って嫁さんからヒョイっと蒼時を抱き抱えると、ソファーに座り蒼時にミルクをあげた。
「……ありがと、銀ちゃん。じゃお言葉に甘えて寝るね。」
「おー、おやすみ。今のうちにゆっくり休んどけな。」
パタンと戸が閉まるのを確認して、俺は軽くため息をはいた。
うちの嫁は本当によく出来た嫁だと思う。
俺にはもったいないくらい。
だけどたまに無理しすぎてんじゃねーかと心配になる。
さっきだって絶対しんどいはずなのに、笑ってるし。
目の下のクマ、俺が気付いてないわけねーだろバカ。
俺が頼りないのはわかってるけどちょっとくらい任せてくれたっていいだろ?
……なんて、思ってしまうのは俺のわがままなんだろうか。
「なァ蒼時。お前の母ちゃん、いい母ちゃんだろ?なんだって俺の嫁さんだからな!お前も俺も幸せ者だ。」
俺の話を聞いてるんだか聞いてないんだか蒼時はゴクゴクと一所懸命ミルクを飲んでいる。
「けどちょっと頑張り屋なんだよなー。1人で頑張ってるように見えるわけよ。俺は父親としても夫としてもまだまだ未熟で頼りねーのもわかってる。わかってんだけど頼って欲しいもんなんだよ。なー蒼時聞いてる?って何言ってるかわかんねーよな。つかうるせェか。すまんすまん。あ、飲めた?」
あっという間に哺乳瓶は空っぽになっていた。
俺は哺乳瓶をテーブルに置くと、蒼時を抱き上げゲップをさせるため背中をさすった。
ミルクをやるのを最初から難なくこなせたが、このゲップだけは何回やってもうまく出来ない。
「今日はうまく出るかなー。」
「……げぽっ!」
「…………え、出た?もう出た?めっちゃ早くね?俺数回しかさすってねーけど?」
「だあっ!」
嬉しそうに声を上げる蒼時を見て思わず嬉しくて泣きそうになった。
だって今まで話し掛けても反応なんか一度もなかった。
それが恐らく偶然だとは思うが、俺の声に反応してくれたのが単純に嬉しかった。
「やっべー……すっげー嬉しいんですけど!てか蒼時!お前ゲップ上手くなったなー!さすが俺の子!」
時刻は午前4時前。
息子の成長にテンションが上がった俺は思わず大声で叫んでしまったことに気付き、慌てて口を紡いだ。
嫁に先に寝てろと言っときながら俺の声で起こしてしまっては意味がない。
俺はしーっと人差し指を口にあててみせ、
「寝るか。」
と、小声で蒼時に伝えると寝室に向かった。
「銀さーん!!朝ですよー!!」
「あ、新八くん、今日は時間ぎりぎりまで寝かせてあげて?夜中ね、銀ちゃんが蒼時にミルクあげてくれてて寝たの朝方だったの。」
いつもの様に銀ちゃんを起こしに来てくれる新八くんに、慌ててストップをかけた。
「そうだったんですか。ならもう少し寝かせてあげましょうか。」
「そうネ。仕方ないネ。」
「ありがとう。夜中なんか叫んでたしね。」
「叫んでたんですか?」
「内容はよくわからなかったけど、ね。」
なんてウソ。
銀ちゃんが先に寝てていいと言われて寝室に戻ったけど、なんだか寝れなくてあのあとなんやかんやで起きていたあたし。
だから銀ちゃんが蒼時に話していた内容も全部聞こえていた。
聞こえていたから余計に寝れなくなったと言うか……。
銀ちゃんと結婚して良かったと改めて思った瞬間だった。
そして銀ちゃんが蒼時を寝かしに寝室に戻ってきた時も起きていたけど、あたしは寝たふりをしていた。
蒼時はあのあとすぐに寝てくれたようで、あたしも本格的に寝ようとした矢先、テンションの上がった銀ちゃんがあたしの布団に潜り込んできた。
『……なァ、もう寝たよな?』
『…………。』
寝たふりをしていたあたしはそのまま寝たふりを通すと、あたしの唇にキスをしてきたのがわかった。
最初は軽く触れるだけの口付けから、そのうち舌を滑り込ませあたしの舌に絡ませては吸い上げてきたのであたしは声を漏らしてしまう。
『んっ……、んぅ。』
『あ、ごめん。起こした?なんか興奮しちゃって我慢出来なくなってよ。このままめちゃくちゃに突き上げていい?』
と、突然耳元で囁かれてドキドキしたのも束の間、銀ちゃんはそのまま寝てしまっていた。
『……お疲れ様、銀ちゃん。ありがとうね。』
今度はあたしから銀ちゃんにキスをして、意識を手放したのだった。
「んー……はよーさーん……。」
「おはよう銀ちゃん。新八くんと神楽ちゃん来てるよー」
「おー……蒼時は?」
「夜中に銀ちゃんがミルクあげてくれたおかげでまだ寝てくれてる。ありがとうね。ゲップもすんなり出てたみたいだし。」
「ああ、そうなんだよ!ゲップがすぐ出て……ってなんで知ってんの?」
「さあ?なんででしょう?」
ニヤニヤ笑う嫁さん。
まさか色々聞かれてた……か?
「え?じゃあもしかしてベロチューしたのも知って………ふべらァァァァァ!!!!」
坂田家は今日も平和です。
end.
20210407 修正
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