「おーい、飯出来たぞー!」
「はーい!」
「今日は銀さん特製スペシャル卵かけご飯だ!遠慮せずに食えよ!おかわりあるからな!」
「………………。」
エプロンと三角きんをして右手には菜箸、左手には溶いた卵が入った茶碗を持ってドヤ顔でそう言っているのは、最近籍を入れた旦那様。
名前は坂田銀時さん。
今日は俺が夕飯作ってやる!と、張り切っていた旦那様だっただけにあたしはちょっと期待をしていた。
なのにこの人ときたら……。
「なんだよ、その不満そうな顔は!」
「いやだって……ねぇ?」
テーブルの上には卵とご飯と…………。
「スペシャルだぞスペシャル!納豆だ!」
スペシャルとして登場された納豆。
そう、納豆なのだ。
「……………。」
「……………。」
この人あたしが納豆食べれないって知ってるんですよね?
昔から納豆を見るだけで吐き気が──。
「うっ……!」
「んな泣くほど感激されるとは思ってなかったわ。納豆まだまだあるからな!」
ドーン!と1パックならぬ1箱をテーブルに置く旦那様。
いやほんとまじですかこれ……。
「………って………でしょ……。」
「ん?嬉しいって?そうかそうか!」
「納豆食べれないって言ってんでしょーが!!昔から納豆食べれないの!!知ってて言ってるんですよね!?あたしが納豆見るだけで吐き気が――…うっ…!」
気持ち悪い。
この匂いとネバネバと見た目がもうだめで。
「………悪ィ……。知らなかった.........。」
あ……、やってしまった。
そう思った時にはもう遅くて。
部屋の隅っこで体操座りして小さくなっている旦那様。
銀ちゃんなりに一生懸命作ってくれた夕飯。
納豆ごときでギャーギャーやかましく言うあたしは妻失格ですよね…?
「あの………銀ちゃん…?夕飯、作ってくれてありがとうね?」
「……………。」
「今度はあたしと一緒に作りませんか?」
「………作る。」
「うん。じゃ夕飯食べよ?冷めちゃうし…ご飯が……うっ…!」
「……………あのさ、その吐き気本当に納豆が原因なわけ?」
あたしの背中を擦りながら銀ちゃんがそう言う。
そう言われてみれば数日前からちょくちょく気持ち悪かった。
じゃ納豆が吐き気の原因じゃなかったら───。
「……あたし…生理遅れてる…………かも。」
「……よな?」
「銀ちゃん……あたし…………!」
なんだか急に不安になった。
銀ちゃんは喜んでくれるのだろうか。
銀ちゃんの顔が見れない……。
あたしは下を向いたまま何も言えなくなった。
「とりあえず明日病院行くか。俺もついてくし。」
聞こえてきたのは意外にも冷静な言葉。
「………うん。」
そう返事したら銀ちゃんは優しくエプロン姿であたしを抱き締めてくれた。
「でもなんでそう思ったの?」
「ん?お前の身体の事を把握しているから。色んな意味で。」
「………ばか。……ありがと。」
「ん。」
旦那様の……銀ちゃんの身体は温かくて心地いい。
もし、子供が出来てたら、子供にもこの心地よさをあじあわせてあげたい。
あなたのパパは優しいパパだよって。
天然パーマでだらしなくて糖尿病寸前だけど、本当は──.......。
「ならしばらくエッチできねーのか。」
…………エロいパパなんですよって、教えてあげるね。
「孕んでくれてありがとうな。」
まだ確定もしていないのに、嬉しそうにそう言ってくれた銀ちゃん。
あたしの不安が一気に消え去った瞬間だった。
返事の変わりにあたしはチュッと銀ちゃんの頬に口付けをした。
これはあなたのパパとママの、あなたが生まれてくる前のお話。
end.
20210407 修正
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