述懐 [ 25/39 ]

 ただの一度でいいから、この声が、この喉が、枯れ果て、血を吐き、
 そしてすべてを失うまで、貴女への思いを叫んでみたいと思うのです。

 それは本心でした。
 貴女の傍を離れ、貴女を一人残し、私はいつの間にか遠くへ来てしまったけれど。


 ――必ず帰ります。


 そう約束しましたが、どうやら私は、帰られそうにありません。
 一度でいい。一度でいいから、貴女に思いを叫んでみたかった。
 最後の最後まで、私は口が上手く回らず、涙を堪える貴女に背を向けるだけしかできなかった。

 月が綺麗ですね。その一言さえ、伝えられなかった。

 貴女のもとへ戻りたい。貴女のもとへ帰りたい。
 そう願う私は、どれほど業が深いのでしょう。

 ただ貴女と共にあれるだけでよかった。
 ただ貴女の声を聞けるだけでよかった。
 貴女と過ごせるのなら、貴女の思いを感じることができるのなら、それだけで、よかったのです。

 すべては、貴女のために。
 しかし、これだけは違う。私は、国のために、自らのために誰かの命を奪った。
 貴女のためにとは言いません。貴女のためになどとは、一度たりとも思ったことはありません。

 ただひとつの例外を除き、私のすべては、貴女のためにありました。
 ですが、貴女のためにと交わしたはずの約束を、私は守れそうにありません。

 ゆえに、ひとつ、慣れぬことをしてみようかと思います。

 熱く、冷たく、相反する感覚に、この身体が滅びてしまう前に。
 貴女のもとへ帰る私の一部に、この思いが沁み込むように。


 最期に、ひとつ。


 ――貴女が、好きです。


 ただいまと言えぬ私を、どうか、どうか、お許し下さい。

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