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「私が――俺が、君の騎士になる」
「え……?」
「守ってやるよ。誰かを犠牲にしてきたなんて感じさせないほど、完璧に。姫様はずっと綺麗なままでいさせてやる」
「で、でも……。だめよ、そんなの。そんな勝手なこと、ゆるされないもの」
「誰に許してもらう必要がある? 姫様が悲しむ必要なんてない。守られて喜んで、嬉しいって言って笑ってればいいんだよ。そうしたら多分、俺も頑張れるから」
戸惑った顔をしているのは、砕けた口調のせいではないだろう。オーギュストや王都騎士団の人間が聞けば嘆息したに違いない台詞に、少女はどう返事をすべきか考えあぐねているようだ。
「また……会える?」
「ああ、会いに来るよ。すぐにでも王都騎士団に入団する。それから、君の騎士になるから」
「……ほんとに?」
「約束する。必ず会いに来るから」
じゃあ待ってる。そう小さく呟いた少女の手の甲に、忠誠を誓う口づけを。
その瞬間、少女はころころと笑った。睫に涙の珠を乗せたまま、それでも嬉しそうに「ありがとう」と屈託のない笑みを見せた。
少女一人を残していくのは心苦しかったが、これ以上の長居はしていられない。
どこかふわふわとした気持ちを抱えて温室を出て小道を駆け出すと、呆れたような声が背に投げられた。
「随分と勝手な真似をしおって。このクソガキが。……青臭すぎて鳥肌が立ったわ」
「オーグ師匠!? いつの間に……っていうか、見てたんですか!?」
木の陰から現れたオーギュストは、彼の身の丈ほどもある大剣を億劫そうに肩に担いでじろりとエルクディアを睥睨した。一気に顔が火照るのを自覚したが、老騎士は馬鹿にするわけでもからかうわけでもなく、じっと自分を見つめている。
あまりにも真剣なその眼差しに、エルクディアは薄ら寒いものを感じた。
「……堕ちるでないぞ」
たとえ、交わした約束が果たされなくとも。
オーギュストはそれだけを言い残し、立ち尽くすエルクディアに背を向けた。
+ + +
騎士になる。
そう誓ったあの子は、もういない。
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