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やっと、みつけた。


hi


 ハルカいわく異世界への通り道は、現在某水族館の深海ルームの一角に開かれているらしい。
 どんだけ適当なんだ。思わずそう突っ込んだけれど、考えてみればアタシがトリップしたときもショッピングモールの試着室からだった。どうやらその時々で座標が変わるらしく、次のゲートが開く日時を調べるのも一苦労らしい。
 明日の今頃には、アイツはもう日本にはいない。帰る場所は海外でもなんでもない、別の世界。そんなことって普通信じられる? こんなこと誰かに言えば、頭のおかしい人間に思われる。でも事実だ。だからこそ、もうあの二人は二度と会えなくなる。
 それでいいのかだなんて、聞ける立場ではない。もうこれ以上掻き回さない。

 ――少なくとも、アタシからは。



「お姉ちゃんっ!!」

 泣き腫らした顔をさらに真っ赤にさせて帰ってきた茉莉花は、肩で息をしながら玄関に膝をついた。顔はぼろぼろ、髪はぐしゃぐしゃ。いったい誰にいじめられたの? そんな風に聞きたくなるくらいの状態のくせに、この子は久しぶりに自分を持った瞳でまっすぐにアタシを見上げて、枯れかけの声を張り上げる。

「悠さん、どこ!?」

 ああ、そう。そうするの。
 なにがあったのと聞いたって、どうせ今は答えてくれない。

「アンタが行きたがってた水族館」

「水族館?」

「下見するって言ってたから。水族館のどこにいるかは知らないけど。ていうか、携帯で直接聞けばいいじゃない」

「あ、着信拒否されてて……」

 「下見ってなんの?」と目をぱちくりさせた茉莉花に、アタシの携帯を投げ渡してやった。

「貸したげる。使いたきゃ使いなさい」

「ありがとっ! あたし、行ってくる!」

 呼吸がやっと整ってきたところだというのに、茉莉花は勢いよく玄関を飛び出していった。まるで嵐みたい。もう日も落ちかけて、長期休みでもない今時分、水族館の閉館時間は刻々と迫っている。今から行ったって間に合わないかもしれない。会うなら明日の方が確実だ。
 でもきっと、あの子は明日まで待てなかっただろう。

「バーカ。……そういう考えなしなトコ、ちゃんとアタシと似てんじゃない」

 ずるいところも、妙にまっすぐなところも。
 面倒な男を好きになるところも。

「アタシ達、さすが姉妹ね」

 だから、きっと大丈夫。


+ + +



 ――あたし、小鳥遊くんのこと、ちゃんと、好きでした。

 薄い扉越しに聞こえたその言葉に、すべてが崩れた。
 乱暴に締めた扉にそのままもたれるように蹲る。しんと静まり返った教室の向こうが少しざわついて、椅子を引く音が一つ、二つ、重なっていく。

「……だいじょーぶかー?」

 一志のそんな声と共に、頭をぐっちゃぐっちゃに掻き回された。おいやめろよ、頭ぼさぼさになるだろ。笑ってそう言いたかったのに、声が出ない。膝を抱えて蹲って、まるで小さな子どもみたいだ。
 無理やり掴んだ腕は細くて、引っ張り出した身体は軽くて、震える声はどこまでも弱々しかった。


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