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「華、昨日の長老様の話は覚えてるのだ?」
(……ええ)
「もう少し詳しく……」
(井宿、だめ。だめよ。私なんかに貴重な時間を使わないで。確かに……気にならないと言えばうそになるわ。長老様の話に出てきた名前は、私の母親の名前と一緒だったし……だけど200年も月日が経っているのよ? 私の母であるはずがないわ。それに、倶東国も神座宝を狙っているはず……時間は有効に使うべきよ)
「……華はそれでいいのだ?」
(……ええ。私の話は後でも問題はないでしょう?)
まぶしい朝日のせいで井宿の顔はよく見えない。
けれども、優先すべきことは彼にもわかっているはずだ。
「……わかったのだ」
(ありがとう)
「華はたまに年相応に、しっかりして見えるのだぁ」
(それ、褒めてるの?)
くすりと小さく笑えば、井宿の大きな手が、華の頭を優しくなでた。
「朝食の用意が出来ているのだ。支度が終わったら来るのだ」
(うん)

その後、何か言いたそうにこちらを見る柳宿と翼宿の視線を無視し、朝食を食べるとそのまま華達は長老から神座宝があると言い伝えがある町の方角を聞き、そのまま慌ただしく旅に出た。



ついたそこは、雪が降り積もる静かで、しかし活気のある町だった。
「この町にあるのは確かなのよね?」
柳宿が寒そうに首をすくめて身震いをする。
(長老様の話が本当であれば、だけれどね)
なにせ時がたちすぎてる。
如何なる根強い噂であろうと尾ひれがついたり消滅していたり、または全く違う話になり替わっていてもおかしくはない。
「情報収集をするのなら、あそこがいいでしょう」
張宿が指さしたのはここらで一番大きいであろう、酒場。
一向は、仕方ないかと肩をすくめると、乗馬により冷え切った身体もついでに癒して行こうと、そこへ入った。
扉を開けた瞬間、漂う空気は暖かい。
ちょっぴりお酒の匂いが漂うそこは、街の人間たちで活気ついていた。
「美朱、なにか飲むか? それとも食べるか?」
「食べたい!!」
鬼宿が美朱が好みそうな食べ物を注文する。
(みんなは何かいる?)
「アタシはお酒」
「オイラも」
「僕は美朱さんと同じがいいです」
(えーと、じゃあお酒6つと、あと饅頭をもう一つ追加でお願いします)
「あいよ!」
鬼宿・柳宿・翼宿・井宿・軫宿と自分の分の酒を頼み、張宿の饅頭を頼むと華は一息ついた。
「ん? 酒が一つ多くないか?」
(あ、それは私の分よ)
「「「「「えっ」」」」」
軫宿の疑問にさらっと答えた瞬間、5人がすごい顔をして此方を向いた。
「華、飲めるのだ?」
(一応、ね)
「ホンマかいな……」
(飲めないと困るから練習してたの。だからある程度のお酒なら大丈夫。それに外すごく寒かったし……)
「お待ちど〜さま! これは可愛い子三人へのおまけだ!」
豪快な声で頼んだものを持ってきてくれた店の人間は、お酒と共に、美朱と華、そして柳宿の前におまけだという小さなお菓子を置いた。
去り際にウィンクを残すあたり、この手で何人か引っ掛けているのかもしれない。
「可愛い子、だとよ」
ニヤニヤしながら、お菓子を呆然と眺める柳宿の胸板を鬼宿は肘でつついた。
「……潮時かしらねぇ」
ぼそっとつぶやいた柳宿が腰に常備していた短剣を取り出した。
「え、ちょと! 柳宿なにするの!?」
美朱が慌てて柳宿を止めようとする。
しかし、その静止よりも先に、柳宿はそのナイフで己の長い髪をばっさりと切り落としていた。
(いいの?)
そう尋ねれば、本人はいたってあっけらかんと頷いた。
「この先女と間違えられちゃ厄介でしょ。それに、ぬるいこと言ってらんなくなる気がするのよね」
(……もし、戻したくなったら私が戻すからいつでも言ってね?)
「華、ありがと。でも、戻すことはないと思う。このままの長さだと、美朱や華を守れないでしょ」
(柳宿……)
「なんかしらけちゃったわね。さ、この後どうするか決めましょ〜」
「それなら僕に考えがあります!」
おもむろに声をあげたのは張宿だった。
その手には何やら筒状のものが握られている。
「これは照明弾です。おそらく青龍七星士もこちらへ向かっているでしょう。なので僕たちは早く神座宝を見つける必要があります。しかしここは広いので、バラバラになって探したほうがいいと思います。そしてなるべく気で悟られないように、何かを発見したらこれを打ち上げる……どうでしょう? 井宿さん」
「オイラもその作戦に賛成なのだ!」
美朱が頼んだ料理を全て平らげ、まだ足りないといった風にお腹をさすりながら鬼宿と柳宿の腕をつかんだ。
「私、鬼宿と柳宿と一緒がいいな〜」
急に腕をつかまれたことにより、柳宿が持っていた器から透明なお酒が少しこぼれる。
「え〜、アタシは華と一緒がいいわ」
「柳宿ひどい〜!!!!」
楽しそうに二人の顔がほころぶ。
その後の話し合い結局、軫宿と張宿と翼宿、そして美朱と鬼宿と柳宿、華と井宿の3つに分かれることに決まった。
(みんな、絶対無茶しちゃだめよ?)
「華にはいわれたくねーな」
「そうね」
鬼宿と柳宿からのツッコミにむっとしながらも、二人の肩をたたく。
(絶対だから。美朱も、絶対無理しないでね。あなたが傷ついたら悲しむ人がたくさんいるのだから……)
「華ちゃんも同じだからね?」
(美朱……)
この子はいつ見てもなぜこうも明るくしていられるのだろう。
強い子だ。
強すぎて華にはまぶしいぐらい。

そして各々神座宝を探しに散ることとなった。






次回執筆中...

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