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(ごめ……な、さい!  ごめんなさい……っ)
  紅南国の宮殿へと、華の力で帰ってきた3人は、いきなり土下座せんばかりの勢いで謝り初めた華の肩を掴んだ。
「どうした!?」
「何があったのだ!?」
「いきなり帰ってくるなんて聞いてないわよ!」 
  華の声に宮殿で待機していた軫宿と星宿、柳宿が駆け寄ってくる。しかし華は未だに狂ったように謝り続けていた。
「軫宿……っ、華ちゃんの腕を……っ」
泣きそうな声で美朱が懇願する。軫宿が頷き血で染まった腕をそっと触ろうとしたその瞬間。華が弾かれたように顔を上げた。
(だめ……っ、さわら、ないで……いや、いやいやいやっ)
「華!  落ち着くのだっ」
今度は拒否の言葉を並べ始めた華の腕をつかむ井宿。
(私、どっち?  ここ……あぁ、違う……っ、なんで?  美朱……違う、違うわ!!)
「どうなってるんや……」
翼宿がつぶやく。井宿が必死に華を抑えた。鬼宿に砕かれた腕は、血が流れ続けている。
「おそらく、心宿に術をかけられているのだ……っ、華!  しっかりするのだ!  華っ」
ぴたりと、なんの前触れもなく頭を抱えて何かに抗っていた華が動きを止めた。
『朱雀七星士よ……』
そして聞こえてきたのは。
「四神の神……!」
四神の神の声だった。井宿が聞き覚えのある声に目を見開く。先ほどまで頭を抱えていた華はゆっくりと身体を起こすと、立ち上がった。
その瞳は黄金色に輝いている。
『我は、四神の神なり』
「四神の神やて!?」
息を呑む朱雀七星士の面々。
『我は、古来よりとある一族の身体を、器として借りていた。この者はその末裔である』
突然の出現と、その言葉に誰もが驚いた。井宿は、華の腕をそっと離すと顔につけていた面を外した。
『四神の神とは、朱雀・青龍・白虎・玄武すべてに平等でなくてはならぬ。しかし、我は青龍によって、その身を人間の器に封印された。その行為は許されぬ』
「……なぜ、封印されたのだ?  四神の神ならば、個々の力よりも強いのではないのか?」
星宿の問に、華は悔しそう顔にをしながら答える。
『我はその時、弱っていた……、その隙を狙われたのだ』
ふと、華の表情が陰った。
『我は、青龍の召喚には協力できぬ。しかし、青龍七星士によって、この者は術をかけられた。我は器の意思には逆らえぬ』
「……心は……心はどうなのですだ?」
それまで黙って聞いていた井宿が、問う。華は、井宿の方へと視線を向けると、ふっと柔らかく微笑んだ。
『我の人選は間違ってはいなかったようだ。器は、良い方へと傾きつつあった。しかし……』
華は小さく横に首をふる。それは、肯定とは逆の意味を示していた。
『先ほどの術で、亀裂は大きく広がった。……巫女には今意識がない。目覚めて何をするのか、我にも検討がつかぬ』
「それって……っ!」
美朱が血相を変えて叫んだ。井宿にも、その先の未来の一つが嫌でもわかってしまいまゆを寄せる。
『井宿よ。巫女の心は深く傷ついていた。それを癒したのは紛れもなくそなたである。……再び我の願いを聞いてはくれないだろうか』
黄金色の瞳が細められた。井宿は、目の前に立つ華の姿をじっと見つめる。
今にも壊れてしまいそうな程細い身体。初めて会ったときはひどく不躾な事をしてしまったのを今でも覚えている。自分の身をもって嫌という程わかっていたというのに。
その細い身体にはきっと井宿が知らない傷も無数にあるのだろう。断片的にしか過去は聞いてはいないが、大体のことは予想がついていた。
「わかりましたなのだ」
しっかりと力強く頷く。華はそれを見届けると、ゆっくりと目を閉じそのまま後ろへと倒れ込んだ。




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