▼01
 結城美朱と、本郷唯は小さい頃からの親友だ。中学校に入って、雛月華と仲良くなるまでは、二人どこに行くのも一緒であった。そして、華が入ってからは、三人ともに行動することが多くなった。そんなある日のこと。国立図書館での出来事。




「美朱……美朱おきなって!」
 立ち入り禁止部屋にひっそりと置いてあった四神天地書という本を広げて直後。紅い光に包まれるようにして三人はどこともわからない場所へと降り立っていた。そこは無数の本が置かれてあったはずの図書館ではなく、草木がちょっとしか生えてない更地。
 早々に目を覚ました唯と華は、傍らでねっころがる美朱の肩を揺さぶった。しばらくして、声に反応した美朱がふと目を覚ます。
「唯ちゃんと華ちゃん……?」
「あ……よかった……」
 唯のため息と共に、手話で美朱へ(大丈夫?)と問いかける。美朱はそれを瞬時に理解して、にっこりと微笑んだ。
「大丈夫だよ!ありがと、唯、華ちゃん」
(ううん、気にしないで?)
「え……?」
 心の中だけで、言葉を紡いだはずなのに、それが聞こえたように、美朱と唯が首をかしげた。
(どうしたの?)
 手話で問いかければ、美朱が唯と顔を合わせる。
「ねぇ、聞こえた?」
「うん、聞こえた。これきっと華の声じゃない?」
(え?)
 困惑した顔で、唯と美朱を見つめる。美朱は、きっとこっちを振り向くと、
「華ちゃん、もう一度喋ってみて? お願い!」
そう言って服を掴んできた。無駄だと分かりつつも、もう一度話そうと口を動かす。
(あいうえお)
「あいうえお?」
 美朱と唯が声を揃えて問いかけてきた。華は今手話を使っていない。うんうん、正解。というように頷く。
「やっぱり! これ華ちゃんの声だよ!」
「すごい……聞こえる……」
(え? 聞こえるの?)
「うん、聞こえる!」
 驚いた。華はもう数年……声を出すことができない。それなのに、今少し念じただけで二人に声が届いたのだ。どういう原理なのだろう、と一人思案する。
 そんな時。
「唯ちゃん、ちょっとあっち行ってみようよ!」
 美朱が急に駆け出し、唯があとを追うように駆け出した。しかし。唯の足元から紅い光が漏れ出して、唯の存在が唐突にその場から消え失せる。
 美朱はそれに気づかずにかけていく。華はというと。唯が消えるのをこの目で見て、手を伸ばそうとした。しかしその手を何かに縛られるように止められて、動けずにいる。
 遠のいていく、美朱の背中。消え失せる紅い光。
 そんな中、華一人、その場に縛られたように動けず、微動だにできないでそのさまを見ていることしかできなかった。



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