▼14
「鬼宿! 鬼宿どこ!?」
早朝。華が庭をぶらぶら歩いていると、美朱の声が聞こえてきた。声のする方へ、華が行けばそこには寝巻き姿でウロウロと鬼宿を探す美朱の姿がある。
美朱は必死の形相で鬼宿を探していた。キョロキョロと首を振り、そしてその視界に華をみつけ、声をあげて駆けつけてくる。華は、びくりと身体を震わせた。
「華ちゃん!」
華の姿を見つけた美朱が走り寄ってくる。
「華ちゃん、鬼宿見てない? どこにもいないの! ベッドの横にこの書き置きがあったんだけど、私こっちの世界の文字読めなくて……」
美朱が手に握った紙を広げてみせる。
(美朱……)
華には美朱の握る紙になんと書かれてあるか、読めてしまった。そして、やっぱり止めておけばよかったと少し後悔をする。
鬼宿を探して、頭をふる美朱に言おうか、言わまいか悩む。けれど、いつか言わなくてはならない。華が言わなかったとしても、必ず誰かが美朱に言うだろう。ならば、言わなければ友達として。
「華ちゃん……?」
(美朱……ごめんね)
華は、その場で頭を下げた。
「ど、どうして華ちゃんが謝るの……?」
(この手紙には、こう書いてあるの)
頭を下げたまま、手紙を見てその目で見えたままを心の中で読み上げた。
(俺は倶東国へ行く。美朱、お前はその間に七星士を集めろ。集まったら必ず美朱のところに唯と戻るから。愛してる、鬼宿)
「うそ……うそうそ! デタラメ言わないで!」
美朱の拳が背中に降ってきた。全く人を殴る気のない美朱の拳はまったく痛くない。華は、頭を下げたまま、美朱の拳を受け入れた。
「どうして華ちゃん、そんな意地悪いうの!? 文字、日本語じゃないんだよ!? 読めるわけないでしょっ、それに、鬼宿と約束したもん! 行かないって約束したもん!」
叩かれる背中より、心が痛かった。昨日の晩。華は鬼宿が出て行くのに気づいた、なのに井宿と喋って美朱が傷つくのを知っていながら見て見ぬ振りをしてしまったのだ。
(ごめんね……ごめん)
美朱に伝わっているか怪しい謝罪。
そのうち、美朱の声を聞きつけた鬼宿以外の集まっている朱雀七星士が、こちらへと駆け寄ってきた。美朱は、もう華の背中を叩いてはいない。その代わりそこに縋り付いて泣いていた。
「どうしたのだ?」
(……手紙を、置いて行ったようで)
「鬼宿の話なのだ?」
こくん、と小さく頷く。
背中に縋り付いて泣いている美朱がいるせいで、頭を上げることができない。星宿がそっと美朱を抱きしめるように華から離し、そして井宿が華の手を引いて姿勢を元に戻させた。
一瞬、ぐにゃりと視界が回った気がしたが気のせいだろう。
「……華、そなたのせいではない」
星宿が美朱から受け取った紙に視線を落とし呟くように言った。華は、それに首を振る。
(私、昨日……鬼宿が出て行くのを感じました。止める理由がその時思い浮かばなかった。だから放置してしまったんです……)
「……華ちゃんのせいじゃない……鬼宿が、鬼宿が勝手にやった事だもん……」
星宿の腕から顔を上げた美朱が、泣き腫らした目で華を見つめる。華は、その様子に違うとまた首を振った。
(止めようと思えばできた。しなかったのは私の責任。私があの時……きちんと止めていたなら……!)
「それは違うのだ」
井宿が割って入ってきた。
「七星士は全員、絆で繋がってるのだ。誰かがどこかへ行けば、抜け落ちる感覚でそれを知ることになる。……昨日の夜。美朱ちゃん以外のほぼ全員が鬼宿の気が抜け落ちる感覚を体験し、知っていたのだ。鬼宿は、止めても倶東国へ行った。それは、美朱ちゃんと家族を守りたい気持ちからなのだ」
「襲われた村の近くは鬼宿の故郷があるところだ」
星宿が、紙を見つめながらつぶやいた。美朱は、そう、そうだ。と首をふる。
「だから、華ちゃんのせいじゃない……わかってるの。でも……」
そこまで言うと美朱は踵を返して走っていった。



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