18:30C
…びっくりした。っていうのも、一也は雅さんにはキョーミないと思ってたから。
「ん?や、何固まってんだよ鳴〜だいじょぶ?」
俺がよっぽど変な顔してたのか、一也がけらけら笑いながら聞いてくる。
「だってさ、今まで聞いてきたことないじゃん、雅さんとのことなんかさ」
中学時代に知り合って、高校時代もたまに遊んでたから、雅さんと付き合うことになったよ!って報告もしたけど、一也は確か、へえよかったじゃん、とか言ったきりでそれ以上聞いてこなかったし、最近どうなの?なんて話今まで一回もしてきたことない。
「いやいや、好奇心好奇心。もうずっとなんだろ?付き合ってんの。俺、一人の相手とそんな長く続かないからさ、どんなカンジなのか気になるんだよね」
「えー、一也浮気とかいくねーよ」
「ん?別れてから行くから浮気じゃねえよ」
「それも最低!」
「…アイツ、何しに来てんの」
白河が怪訝な顔をして横の2人(正確には御幸)を見やる。
横目で見ながらさっさと俺のグラスに酒を作ってくあたり、よくも器用に出来るようになったなあ〜とか関心する(仲間内では周知の事実だけど、白河の不器用さったら半端ない)(相変わらず料理は俺がしてますけどね)
「サンキュ。さあねえ…ま、ここキャバクラだし、鳴ちゃんのこと口説きに来たんじゃない?」
「それ、冗談に聞えなくてヤなんだけど」
「……バレた?」
多分だけど、御幸は鳴のこと相当狙ってると思う。…ホンキで。
一人の女の子と長続きしないのも、雅さんの話題に触れないのも、全部それの裏返しだ。
知り合った当初から好きだったのか、雅さんと付き合うに至って渡したくないと思ったのか、それは定かじゃないけど、今はどう考えても狙ってるよね。
隣に聞えないように話そうと、ちょっと前かがみになる。白河もそれにあわせて、顔を寄せあう格好になった。…まあ御幸の方は多分こっちのことなんか眼中にないから、わざわざ小声で話すこともないのかもしれないけどな。
「んー…何度かね、軽くカマかけてみてんだけど、いっつもはぐらかすんだよねぇアイツ」
「鳴のこと?」
「そ。遊び友達だよー、とか、好きだよ、ちっちゃくて可愛いじゃん、とかそんなノリで強制終了」
「お前あんま真面目につっ込めるキャラじゃないからな」
「…すいませんね…」
まあ、雅さんとかなら真正面からぶつかってって玉砕しそうだから、お前くらい食えない男が相手にした方がいいだろ、っていうフォローだかなんだかわかんない発言をされたので、ありがとって言っておいた。
とにかく。
うちの店っていうか、俺らの身内は雅さんと鳴が仲睦まじく成り立ってるから平穏無事に過ごすことが出来る。
ここの2人が上手くいってないと、全部に波紋が広がる。
とんでもないことになる。
こいつら熟年夫婦のくせに、未だに初々しい(といえば聞えはいいけど、いい加減学習しろよって俺は思う)ところがあって、時々すっげーくだらないことでケンカする。家の中でおさまってりゃいいけど、2、3日続くと周りを巻き込んだ大騒ぎに発展する。
日常の痴話げんかレベルでも、大体俺とか吉沢先輩あたりが東奔西走するハメになったりする。
…そんなわけだから俺あたりからすると、本格的な修羅場なんか迎えられたら大災害レベルだ。
御幸一也は、そういう意味で目下最大級の超危険人物。
鳴が気付いてりゃいいんだけど、あの子は鋭い小悪魔のくせに変なところで鈍感だから、どうやら御幸の好意は、自分から一也に対する好意と同じ、と思ってるフシがある。つまり超無防備。
もともと稲実内では鳴をしょっちゅう誑かしに来る御幸の評判は最悪だったから、御幸に対する厳戒態勢は今もって健在なわけなんだけど、当の鳴は一也大好きだからなかなか難しい。
…鳴ちゃんの忠犬・樹ちゃんがこっちをにらんでるのがわかる。多分他の人から見たら見てるだけなんだろうけど、俺にはわかる、睨んでますよね。
きっと、なんでそんな有害物質店に招き入れてるんですか、っていう俺への抗議。
…これでもがんばったんだけど…一人でどっか出かけようとしてる御幸を見つけて、どこ行くのかハッキリ言わない御幸になんとなーくいやな予感がして、一緒に店に入ってきただけマシだと思わない?
(でも多分樹ちゃんは、鳴にちょっかい出してる俺のことも結構きらいなので、その辺の事情はあんま考慮してくれてないと思う)
−−−−−−−−−−
next